本研究では、一票の格差の小さな選挙区割の求解や、災害からの避難時間を短くする避難所割当などの社会システム設計において、グラフ最適化問題として定式化し、解空間圧縮保持技法により解くことを目指す。本技法で扱えるグラフの種類、制約条件、目的関数の種類を従来研究より大幅に増やすことにより、技法を体系立てて確立することを目的とする。 本年度は、解空間圧縮保持の手法で扱うことのできる基グラフを前年度に引き続き大幅に拡張することに成功した。今年度はメニエルグラフやパリティグラフ、距離遺伝グラフ等、弦によって特徴づけられるグラフを扱うためのアルゴリズム設計と実装を行った。 提案手法の応用面でも研究を行った。与えられた地図上における選挙区割の策定には、区割が恣意的に作られたかどうか判定するために、一様ランダムサンプリング等、統計的手法を利用する。既存手法で選挙区割のパターンを解空間圧縮保持の手法で保持することは可能であるが、本研究により、保持した解空間からのランダムサンプリングを用いて MCMC 法が生成する区割の分布が真の分布に近いことを示した。 解空間圧縮保持のために、これまでの研究ではZDDが用いられていたが、最近研究が進められている ZSDD を用いた手法の研究も行った。ZSDD は ZDD の一般化であり、圧縮効果がより高いが、構築アルゴリズムが複雑になる傾向がある。本研究では、与えられたグラフの部分グラフ集合をZSDDとして表現するための汎用的なアルゴリズムの枠組みを構築した。 本研究の成果を、graphillion と呼ばれるグラフ列挙のライブラリの一部として公開した(http://graphillion.org)。グラフ分割や弦グラフの列挙と、それによる組合せ最適化問題の求解が、アルゴリズムの専門知識を意識せずにできるようになる。本技法の普及を目指して、解説スライドを公開した(https://www.algo.cce.i.kyoto-u.ac.jp/jkawahara/frontier/)。
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