研究課題/領域番号 |
18K04612
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
村井 浄信 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (00294447)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 長期記憶 / クラスター展開 / ハースト指数 / 自己励起 / 株式市場 |
研究実績の概要 |
株式市場における高頻度データ,すなわち市場参加者による注文の集計履歴および成立した取引の履歴などのデータについての解析により,時系列データとしての時間相関に関する興味深い現象がいくつも発見されている。それら現象の発生原因を明らかにするため,ある仮説のもとで市場参加者の投資行動を統計力学の1次元ポリマーモデルで表現する。ポリマーのベースの空間を離散時間と考えることで離散時間の確率過程(離散モデル)を定義し,離散モデルがその現象を再現していることを確かめる。そのために,統計力学のクラスター展開とよばれる統計力学の手法を用いて,離散モデルのスケール極限により連続時間の確率過程(連続モデル)を構築し,連続モデルの分布がその現象を再現していることを示す。 継続して実施している高頻度データの時系列としての長期記憶性についての理論的な研究において,取引頻度の異なる市場参加者が混在していることの重要性が明らかになってきた。本年度は,長期記憶性の研究を引き続き行うとともに,市場に間欠性やマルチフラクタル性などの複雑な現象が現れる要因として,取引頻度の異なる市場参加者間の相互作用に着目し,取引頻度の低い市場参加者グループから取引頻度の高い市場参加者グループへの投資行動のカスケード構造を導入することで,これらの現象を再現することに成功した。また東京証券取引所の高頻度データを用いた実証研究もあわせて行なった。これらの研究成果を学術論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果を学術論文として発表するなど,研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
株式市場の記憶に関するボラティリティの時系列データの長期記憶性と取引符号の時系列データの長期記憶性という2つの現象について,ある仮説にもとづき離散時間の確率過程(離散モデル)を定義し,離散モデルがその現象を再現していることを確かめる。そのために,クラスター展開とよばれる統計力学の手法を用いて,離散モデルのスケール極限により連続時間の確率過程(連続モデル)を構築し,連続モデルの分布がその現象を再現していることを示す。 人間行動の時間分布が,取引符号の長期記憶という現象に及ぼす影響の研究については,潜在的注文の分割発注の時間間隔のベキ指数は潜在的注文のサイズに依存すると仮定して,累積の取引符号を表現する確率過程を定義する。そして,そのスケール極限としての連続時間の確率過程をクラスター展開に加えて,Kotecky-Preiss理論,Pfisterの補題という統計力学の手法を用いて導出する。このとき,極限の確率過程は標準ブラウン運動と可算無限個の互いに独立で異なるハースト指数をもつ非整数ブラウン運動の重ね合わせであることが予想される。さらに,その確率過程はハースト指数が銘柄や期間による揺らぎが小さいという実証結果を再現することが期待される。すなわち,タイプの異なる投資家がハースト指数に与える影響を明らかにできると考えられる。 仮説の妥当性を確かめるために,本研究費を用いて,東京証券取引所の高頻度データを各年度ごとに購入し,分析に必要な機器を購入する。また経済物理学や確率論の国内外の学会に参加するための旅費を本研究費から支出する。学会に参加することで情報の収集に努める。さらに連携研究者たちとのセミナーを定期的に行うことで議論を深めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本務高業務との兼ね合いで予定していた出張のスケジュールが合わなかったことなどが次年度使用額が生じた理由である。
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