研究課題/領域番号 |
18K04631
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大谷 英雄 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (10213761)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 消火器 / 熱分析 / フェロセン |
研究実績の概要 |
有機鉄化合物であるフェロセンは火炎中で鉄原子を放出し、鉄原子が負触媒として働いて燃焼反応を中断することが分かっている。当初は申請したとおり、鉄化合物であるフェロセンを対象として考えていたが、フェロセンは実験室規模の小規模火炎に対して放出している段階では消火効果を発揮できていたものの、消火剤メーカーの実験施設で、ある程度規模の大きい火炎に対してはうまく消火効果を発揮できないことが明らかとなった。これは、本研究の申請書でも記述しているとおり、粉末が小さすぎると火炎に到達できないため、消火器に充填して使用するにはある程度の粉末粒径を必要とすることによると考えられる。そこで、昨年度より、フェロセンより消火効果の大きいフェロセン誘導体や他の金属化合物に探索範囲を広げて消火効果を有する金属化合物を探索している。フェロセン誘導体については合成する必要があり、合成できた物質を同定するために昨年度購入した示差熱・熱重量同時測定装置や本学機器分析センターの分析機器を使用して燃焼抑制効果を有すると見込まれる固体の化学物質について熱分析や化学種の同定を実施した。 消火効果がフェロセンよりも高そうな有望な物質としてはフェロセン誘導体などが考えられ、フェロセン周辺の有機鉄化合物について有用な物質の探索を続けている。その中で一つ有力な候補として見出されたものがトリフルオロ酢酸鉄(Ⅲ)であり、今年度はこの物質を中心に研究を行った。 トリフルオロ酢酸鉄(Ⅲ)は市販されている物質ではないため、まず合成を行い、合成された物質について核磁気共鳴分光法、質量分析、熱重量分析などにより同定を行って目的物質が合成できていることを確認した。さらにこの物質を使用した消火実験を行い、炎を消す効果は大きいが固体可燃物の表面燃焼を止める力はないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
示差熱・熱重量同時測定装置を購入し、目的とする固体消火剤の熱分析を行えるようになった。当初考えていたフェロセンについては、実験室規模では顕著な消火効果を発揮し、実用に足るものと考えていたが、ある程度実用に近い規模では満足に消火効果を発揮できないことが明らかとなった。元々の計画でもフェロセンの消火効果を検討した後に他の類似金属化合物についても検討する予定であったが、早めにフェロセンについての検討を切り上げ、他の類似金属化合物の検討に移ることとなった。提案した研究内容を若干スキップした感はあるが、実用に向けては順調に研究が進んでいるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在は消火剤として実用化の可能性のある物質を探索している段階である。フェロセンと同程度の効果を発揮するものは見つかっており、有機鉄化合物で結合エネルギーが小さい物質が有望であると考えている。実用化の可能性を確認するためには規模の大きな実験が必要であるが、探索のための段階では候補物質を大量に準備することはできないので、まずは実験室規模で化学反応としての燃焼反応の抑制が可能かどうかという観点から評価を行うことを考えている。実用化はまだ先の話だと思うが、これまでに消火剤として考えられたこともない新規の物質の発掘が可能となるものと期待している。
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