初年度から四年目までに構築した直方体形状の三次元簡易計算領域における粉塵爆発の数値シミュレーション手法を用いて、実石炭の性質を組み込み、主に解析領域を拡大した炭塵爆発数値シミュレーションを実施した。手法の具体的な内容としては、これまでと同様に、流れ場の非定常性を再現するLarge-eddy simulation(LES)、爆発に伴うガス膨張を考慮する手法,粉塵を質点近似によりLagrange的に追跡する手法および粗視化するパーセルモデリング、ガス相の化学反応を低計算負荷で行うためのFlamelet/progress-variable(FPV)法、火炎面を正確に補足するためのG方程式法を採用している。さらに一部では計算負荷を下げつつも燃焼反応現象をより正確にとらえることを目的として二段総括反応モデルを化学反応モデルとして採用した。なお、空間に浮遊分散する粉塵に石炭の化学種組成(豪州産ニューランズ炭の性情を参照)を採用し、微粉炭燃焼の特有の揮発分燃焼と固体燃焼の両燃焼現象を再現するようにした点については初年度から同様の手法を継続して用いている。本年度と昨年度は計算領域を拡大して解析を試みたが、数値シミュレーション自体は問題なく進行したものの、本課題の目的としている工学的スケールでの粉塵爆発解析においては、実現象の再現のための初期乱流場の生成の困難さ、解析領域の拡大に伴う計算負荷の増大により、本手法では十分な解析が難しいことが分かった。 研究期間全体を通した成果としては、簡易的な解析領域を用いることにより炭塵爆発数値シミュレーションが実施可能であることが分かった。しかしながら、同解析手法を工学的スケールの現象に適用するためには、流れ場の解析にLESを適用することの是非および用いる化学反応モデルの検討による計算負荷の抑制が不可欠であり、今後の課題であることが分かった。
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