本研究は,実験・理論解析・数値シミュレーションの併用により流動する可燃性ガスの着火性の学術的知見を獲得し,評価手法の高度化をめざしたものである。その成果は省エネやクリーンエネルギーとしての可燃性ガスの有効利用にあたってのリスクアセスメントへの応用が期待される。本研究では特にプロパン/空気予混合気に着目した。2019年度までは,流動する予混合気の着火を支配する条件を明らかにするために,高温の熱面を使用した実験を行い,着火の臨界条件に関するいくつかの新規知見を得てきた。2020年度は対向平板電極を着火源に使用し,流速を0.0 ~ 3.0 m/sの間で変化させつつ高電圧を印加して生じさせた交流スパークによる着火実験により,消炎距離を測定した。その結果,本研究で設定した流速の範囲内では,流速が大きくなるほど火炎核から電極平板への熱損失が小さくなるために,消炎距離が短くなった。これは電極間隙内に形成される境界層の発達,及び流速に伴う加速による,予混合気の電極間隙内での滞留時間の短縮に由来する。このことは,すなわち流速の増加に伴い着火しやすくなる(着火エネルギーが小さくなる)ことを意味する。得られた消炎距離と静穏下で得られる消炎距離の比(無次元消炎距離)は,燃焼速度と流速の関数で表現できるとしたモデルを構築し,実験データを当てはめたところモデルと良好に一致した。このことは燃焼速度が未知の場合であっても,消炎距離を測定することにより燃焼速度を予測できる可能性をも示唆している。今後,対向平板電極及び2018・19年度に実施した高温熱面を用いた着火実験の比較から,これら異種の着火手法による着火性を統一的に取り扱える評価手法の構築が期待される。なお本研究課題においては,査読付き国際論文1報,査読付き国内論文2報,国際会議発表2件,国内会議発表8件による活発な成果発信ができた。
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