研究課題/領域番号 |
18K04649
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
青山 裕 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30333595)
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研究分担者 |
吉本 充宏 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 研究員 (20334287)
本多 亮 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 研究員 (70399814)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 雪泥流 / スラッシュ雪崩 / 富士山 / 震動観測 / 土砂移動 / 火山砂防 |
研究実績の概要 |
初年度である2018年度は,富士山の北斜面で主に春期に発生する雪泥流の震動観測を目的とした臨時観測点の設営・維持作業と臨時観測用の機材の導入を主に行った.2018年時点では,富士山頂から半径15km以内で連続稼働中の気象庁および防災科学技術研究所の火山活動監視目的の震動観測点は9点あるが,雪泥流の発生域に近い山頂から北側山腹には富士山頂(気象庁),富士鳴沢塒塚東(気象庁),富士第5(防災科研)の3点しかなく,山頂をのぞく2点も西北西の一角に偏って分布している.そのため,北西方向への雪泥流の流下検知能力は比較的高いと考えられるものの,無数の流路が認められるスバルライン5合目近傍や北東山腹には震動観測点が存在せず,泥流の発生を検出できない(あるいは位置決定精度が低下する)恐れがある.そこで本研究では,既存観測点がない地域や観測点の隙間を埋めるように,富士スバルラインおよび滝沢林道沿いの4-5合目の6箇所に臨時地震観測点を設置した.現地には商用電源がないことに加え,冬期の暴風雪を考慮して太陽電池の導入を諦め,蓄電池のみによる観測形態を選択した.観測点の設置作業は積雪による道路の通行止めが始まる直前の12月中旬に実施し,一部の観測点では東京大学地震研究所所有の空振計(音波観測)を併設した. 2018年-2019年の冬期は例年に比べて積雪が少なく,3月中旬までに明瞭に発生が認められた雪泥流は1例に留まっている.この事例については,おおよその発生日時のほか,現地調査により流下経路の確認がなされている.また,既存の連続観測点の震動記録を確認したところ,雪泥流の流下によると思われる震動が認識できた.本研究による臨時観測の目的や概要については,2018年12月に北海道虻田郡ニセコ町で開催された「第2回 国際雪・雪崩シンポジウム in ニセコ」において,共同研究者の本多から報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
富士山の火山活動が表面的に静穏であることに加え,富士山中腹以上の高標高域における自然環境が極めて厳しいなどの理由から,本研究グループが知る限り最近20年くらいは富士山の高標高域における連続震動・音波観測は試みられていない.冬期観測の先行事例がない中で臨時観測点の設置場所選定なども手探りで始まった本研究であるが,地元の火山研究者として現地の環境や社会インフラを把握している研究分担者の吉本および本多が観測点候補地の現地事前調査を実施したことで,地図上で検討していた当初計画にほぼ沿った配置や観測点数での臨時観測を始めることができた.具体的な観測点設置場所は,スバルライン沿いの「大沢駐車場」「奥庭駐車場」「青草洞門」「坂下洞門」と,スバルライン5合目より東側の「佐藤小屋」「滝沢林道」である.これらの臨時地震観測の機材については,当初の計画通りに東京大学地震研究所の共同利用物品を借用させていただいた.例年は2月から4月の融雪期に雪泥流の発生が増大することから,2018年-2019年の臨時観測では12月中旬から4月中旬までの100日程度を観測予定期間として電源容量の算定を行った. 残念ながら,本研究で購入した気象観測装置については,消費電力や設置場所・データ収録方法について課題が残ったため,今年度の観測については断念せざるを得なかった.その代わりとして,5合目近傍で道路管理用の気象観測を行っている山梨県道路公社に冬期間の気象データの提供を依頼しご了解をいただいた. あいにく2018年-2019年の冬期は富士山一帯での積雪が例年より少なく,雪泥流の発生も多くないようである.現在のところ,2019年3月8日の朝方に雪泥流の発生が報告されており,防災科学技術研究所の火山観測用の地震計で小振幅ながらも信号が記録されていることを確認している.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,雪解け後に臨時観測点の撤収とデータ回収を行い,気象庁,防災科学技術研究所の火山監視観測目的の連続震動データと結合した上で,雪泥流発生時のデータセットを作成する.本研究で利用する地震学的な解析では,それぞれの震動観測点における振幅情報を用いるので,観測点ごとの地盤増幅特性を事前に評価する必要がある.そのために,2018年-2019年の本研究の観測期間中に富士山周辺で発生した一般の地震(構造性地震)の記録を抽出し,地盤増幅率の評価を行う. これまでの予備的な研究から,富士山の既存の連続震動観測点のデータだけでも,規模の大きな雪泥流(特に北西方向への流下が見られたもの)は,それなりの精度で流下位置が推定できることが示唆されている.2019年度は,本研究での臨時観測データを加味した上で,解析に用いる観測点の組み合わせや数を変化させ,推定結果にどのような差異が出てくるかを検討する.また,山梨県道路公社より提供いただく予定となっている気象データについては,地震波形の時間変化と気象要素の時間変化との対応関係を検討し,雪泥流が発生した時間の気象条件の評価を行う.これは後に解析システムへ気象情報を組み入れる際の基準値を考えるための予備評価である. 2019年度の積雪期前には,改めて臨時観測データの取得を目指した地震計・空振計などを用いた冬季連続観測点を設ける.今年度の取得データの状況を評価した上で,可能であれば今年度と同一の地点で,必要があれば地点を変えて実施する.また,本研究で購入した気象観測装置の併設も可能な限りめざし,自前での冬期気象要素の取得に努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
臨時観測に用いる機材のうち,蓄電池については本研究の消耗品費で購入を予定していたところ,東京大学の共同利用物品として他の観測機材と一緒に借用することができたため購入を見合わせた.また,ニセコの国際学会での発表にかかる旅費についても,本研究費からの支出が予定より削減されたことで,13万円程度の余剰となった. 今年度も地震計等の観測機材の調達と2年度目の臨時観測を予定していることから,昨年度の余剰金はそのための旅費や消耗品費として執行できる見込みである.
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