研究課題/領域番号 |
18K04650
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
丸谷 浩明 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (40419453)
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研究分担者 |
寅屋敷 哲也 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構, 人と防災未来センター, 研究員 (50758125)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 事業継続計画(BCP) / 中小企業 / 必須要素 / 生命・身体の安全 / 緊急時の連絡先 / 情報のバックアップ / 重要な事業 / 資金確保 |
研究実績の概要 |
令和元年度までの2年間に、東日本大震災、熊本地震、令和元年度東日本台風等の災害での被災企業の復旧状況の文献調査や現地調査や、既往の事業継続計画(BCP)のガイドラインや策定マニュアルの文責を踏まえて、BCPの策定に着手していない、または着手したばかりの中小企業の事業継続の実現に効果が高く、かつ取組に費用や手間がさほどかからない必須要素の抽出を、概ね行うことができた。 それらは、「主に人の身体・生命と資産を守る取組み」と「主に事業継続力を向上させる取組み」の2つに分けることが分かりやすいと考えている。このうちの前者は、避難誘導、安否確認、災害時の対応体制の整備、地域のハザードマップの確認などの防災とも共通のの基礎的な取組が事業継続にも不可欠な要素であることを確認した。後者については、企業の供給責任の実現の基本となる緊急連絡先のリストの整備、重要情報のバックアップ、優先して復旧させる事業の決定、代替拠点のイメージ把握、必要さ資金確保の概略の方法の検討などであることを把握した。 これらの必須要素の有効性及び妥当性を検証の意味も含めて、令和元年度には、所属する東北大学の災害科学国際研究所において、6回連続のBCP月次オープン講座を実施し、最大で82名の参加を得た。他の講演の機会でも、例えば東京都港区主催のBCP策定・改善の講習会(4回開催)や、仙台市主催の福祉施設向け講演会などでも、この必須要素を具体的に示した早期の着手を推奨し、ワークショップでも議論した。さらに、所属するNPO法人事業継続推進機構の主催の意見交換会でも、この中小企業のBCPの必須要素を説明して、意見交換を行った。また、これらの要素を、代表研究者が研究室のHPから公開している独自のBCPテキスト「中小企業BCP導入ガイド」でも取り入れて、逐次、改善を行ってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中小企業の事業継続の実現に効果の高い必須要素の抽出を概ね行うことができ、その中に、従来のBCPガイドライン等で策定の初期段階で取り組むよう強く推奨されていないものも発見できている。また、その妥当性・有効性の検証がある程度進んでいるため、概ね順調に進展していると考えている。 中小企業の事業継続の実現に効果の高い必須要素の特定及び妥当性・有効性の検証のため、令和元年度には、既存の政府・自治体は公表しているBCPガイドラインや策定マニュアルの収集・分析をほぼ終了した。防災と共通性の高い要素については、既存のガイドライン等で共通して重要性が説明されており、研究代表者が費用や手間の面で負担が軽く、効果があるものを優先する順序付けを行うことで特定ができた。一方、事業継続に特有な要素については、既存のBCPガイドラインでは、地域の災害リスクの把握と被害予想、及び重要業務の選定から着手するといった分析・検討フェーズが先に示されており、事業継続力を高める具体の対策は後になることが一般的で、説明方法の改善の必要性が推察された。研究代表者は、即効性のある事業継続力を高める対策で、負担が少なく、さらに、本格的なBCP策定の流れも阻害しないものを選定することが重要と推察し、「緊急時の連絡先リストを全社的ン丁寧に策定すること」を必須要素の候補として特定した。その他、情報のバックアップなどの、近年の技術進歩と必要な機材の安価化から早期に実施可能になってきた要素もあり、これらも有力な候補として注目している。 これらについて、研究代表者が東北大学の主宰する産官学のBCP・防災の勉強会などで意見交換を行い、さらに、所属研究所でのBCP月次オープン講座、所属するNPO法人事業継続推進機構の主催セミナーなどの場での説明・意見交換において、その有効性・妥当性について一定の評価を得られた状況である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度には、中小企業が着手しやすい事業継続力を向上ための必須要素の有力候補について、さらに妥当性・有効性の検証を進める。研究代表者の地元の仙台でBCPの教材の中にこれら必須要素を盛り込み、セミナーを実施するとともに、宮城県内、東京などでも実施する予定である。研究代表者が所属する事業継続推進機構の東京や大阪での意見交換会の場も活用していく。 また、中小企業庁が令和元年度から開始した中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化計画の認定制度」と連動して研究を進める。既に数千社がこの認定を受けているが、これら企業もこれから事業継続力を高める「意思を持つ」にとどまるレベルであることが多い。研究代表者は、本件に関する中小企業庁の「中小企業強靱化法アドバイザリーボード」の座長を務めており、本研究の一環としてこれら企業と勉強会などを持つ機会を得やすい。そこで、地元自治体や中小企業支援組織と連携してBCP勉強会などを開催し、本研究での必須要素へ早期に取り組むよう提案し、その有効性も確認していきたい。 また、本研究では、中小企業の事業継続力の有効性の評価のため、この必須要素を活かした新たな評価の仕組みを構築することを主要な目標としている。そこで、研究分担者や研究協力者と連携してこの仕組みの素案を策定し、研究代表者が主宰するBCP・防災の勉強会などで議論し、その後、試行的評価をセミナー・講演会の場を活用して進めていく予定である。 最後に、令和2年に入り日本でも新型コロナウイルス感染症が拡大し、令和2年度の事業継続上の大きな脅威となることが懸念されている。そこで、本研究の事業継続力を向上させる必須要素が、新型コロナウイルス感染症による社会の混乱時の事業継続でも有効か、あるいは別要素の追加が必要なのかなどについても本研究に含め、企業との意見交換の場などで研究を行っていきたい。
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