本研究の目的は,海岸域の津波災害と高潮災害の両者を対象として,確率論的浸水リスク評価に基づき,地方の人口増加・経済成長もしくは人口減少・経済縮小の実状に合わせた減災政策・地域強靭化政策を評価できる,システムの開発である.具体的に実施したことは,はじめに現時点の津波および高潮の浸水リスクを確率で定量的に提示した.次に第一義的リスクは生命であり,避難行動の難易で決まるものとして,避難行動を含めたリスク評価を実施した.そして社会的に許容できる死亡リスク(生存確率)までリスク低減させる施策を試算した. これらを実施した結果,生存確率を指標とした沿岸災害の統合リスク評価方法を構築できた.構築した評価方法を茨城沿岸の津波と高潮と2種類の水災害に適用し,個々の水災害に対するリスクを定量的に評価し,それらを統合した複数の水災害に対する死亡リスクを算出できることを示せた.また統合後のリスクが統合前のリスクよりも大きくなることから,リスクの統合化を行うことの有効性を示すことができた.更に許容リスクを基準に設定して評価を行う場合に,統合後のリスクを指標としたほうが,許容リスクを超えるリスクを発見できるため有効であることを示せた.また減災施策については,許容リスクを満足するのに必要な避難施設数が算出でき,低減目標に応じた適切な減災施策の検討が可能であることを確認できた. 以上を総合して,構築した生存確率を指標とした沿岸災害の統合リスク評価方法が有効であることを示した.なお,浸水確率,生存確率,社会変動など個々の予測精度には今後,改良の余地が多く残るものであるが,それらが解決すれば実用的な沿岸域の災害リスク評価手法となりうるものである。
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