国際海事機関(IMO)で定める条約により、指定された仕様の船舶は、その位置情報を含む所定の情報を、自動船舶識別装置(AIS)のデータとして発信し続ける義務がある。このデータは通常、海上交通および貿易統計の把握のために使用される。本研究では、このデータの津波の流れの計測への利用可能性を開拓した。まず、2011年の東北地方太平洋沖地震発生時に震源近傍を航行していた船舶のAISデータを整理した。特に、それぞれの船舶の位置に加え、移動方向および船首方位の情報を分析することで、これらの航行船舶のAISデータから、その地震に伴う巨大津波による流れが、定量的に検出できることを確認した。この結果は、沖合を航行する無数の船舶が、現状のAISの枠組みで、津波の流れを検知するセンサーとしての機能を有していることを示している。その流れの情報を基に、2011年の津波の波源の推定、および、沿岸での波高予測の数値実験を実施したところ、妥当な結果を得ることができた。次に、船舶の回頭運動を考慮することで、AISデータのノイズを低減する方法を提案した。沖合船舶は針路を適宜変更するが、この効果を取り入れることで、データのノイズレベルを効果的に減少させられることがわかった。一方、AISの情報は、船体の移動・運動を反映しており、津波の流れそのものではない。船体の運動方程式を考慮することで、船体の移動から、津波の流れを推定する手法も実施することで、より合理的な津波の流れの推定を可能とした。
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