研究課題/領域番号 |
18K04672
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
近木 祐一郎 福岡工業大学, 工学部, 教授 (10398109)
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研究分担者 |
間瀬 淳 福岡工業大学, 付置研究所, 研究員 (00023325)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 合成開口レーダ / 移動体検出 / スプリットビーム方式 |
研究実績の概要 |
本研究は合成開口レーダ(SAR)画像から移動体のみを抽出表示することを目標としている。動作原理としてはレンジ方向に移動する移動体のみがSAR画像上でクロスレンジ方向にシフトすることを利用し、クロスレンジ方向にスプリットした2つの放射パターンを持つ受信アンテナで2つの画像を取得および信号処理することにより、静止物体を画像上から消去するクラッタ―キャンセル処理を行い移動体像のみを抽出するものである。 2020年度では改修SARによる地上試験を行ったが、新たに挿入したスイッチングシステムなどのロスにより3kmレンジの地表上のターゲットを撮像することが困難であった。そのため大型の反射体を1つ製作し移動体がクロスレンジ方向にずれて表示されることを確認したが、スプリットビーム方式によるクラッタ―キャンセルの実証は、必要な放射パターンがわからないため実施することができなかった。 そこで2021年度ではさらに反射体を4つ製作し、照射領域に計5つの反射体をクロスレンジ方向に並べて撮像実験を行った。5つの反射体のうち1つを移動体として、残りの4つを地上に固定し使用した。撮像された4つの固定ターゲット像から放射パターンの推定は概ね可能で、その放射パターンとそれぞれの放射パターンで得られた2つのSAR画像を用いてクラッタ―キャンセル処理を行った。その結果、4つの静止物体の画像上の明るさは低下し、逆に移動体像の明るさは増加するといった望ましい現象は見られたものの、依然として静止物体を画像上から消去するほどの効果が見られなかった。このような結果になった理由として、放射パターンを4つの固定ターゲットで完全に推定できていない可能性もあるが、異なる位置に配置した2つの受信アンテナで受信される反射波の強度がコヒーレントなためファクター程度ずれてしまうためではないかと推察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度までの研究により、目標としていた現状のSARのスプリットビーム化改修を行い、2021年度に改修SARによる移動体検出実験まで漕ぎ着けることができた。ただ、実験の結果は上述のように概ね動作原理は実証できたものの、静止物体を完全に消去するまでには至らなかったため「やや遅れている」と最終判断します。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究結果では、完全にクラッターキャンセルできない原因は、反射体の異なる方向への反射強度の変化があるためではないかと推察した。この反射強度の変化は今回使用した大型の反射体(コーナーキューブリフレクタ)に特有なものとは考えられず、通常の地表面でも大なり小なり発生する可能性を考慮に入れる必要がある。スプリットビームを受信する2つの一次放射器の位置は30mm程度離れているだけであるが、反射体の面からの反射が放射器前面で複雑に干渉した結果、画像上でファクター倍程度の明るさの違いを生んでいる可能性がある。これでは現行のデータ取得条件ではファクター倍程度のキャンセルできないずれが現れてしまい、つまりは完全には現状の条件および解析手法ではクラッターキャンセルができないことが推察される 今後は、この不具合を解決する信号処理やデータ取得手法の研究を推進する。現時点で考えられる解決手法の候補は、移動体をよりクロスレンジ方向によりシフトさせるレーダの運転または信号処理手法の採用である。これは、レーダ照射の繰り返し周波数を下げる、または解析時にデータを間引きすることで可能になる。これにより移動体画像は静止物体が映った領域の外側までシフトし、これから移動体のみ判別が可能となり、そこからレーダ測定ごとの反射波強度を2つのチャンネル毎に評価可能となる。さらには以上のデータを用いて上述したファクター倍程度の信号強度の違いを均一化したうえで、これまで通りのクラッタ―キャンセル手法を適用し、静止物体の明るさの減少幅が大きくなるか確認していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね適切に予算は執行できている。21万円ほど次年度使用額があるが、追実験の実験補助費や研究成果発表費に費やす予定である。
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