研究実績の概要 |
本研究課題では, 希土類永久磁石における磁気特性の微視的・定量的な理論的記述を確立し, 高性能磁石開発の指針を与えることを目的とする. そのためにまず, 希土類遷移金属化合物を対象として第一原理電子状態計算を実行し, その結果に基づいて各元素が担う磁気異方性や磁気モーメント等のパラメータを算出する. また, 希土類イオンの4f軌道と遷移金属イオンの3d軌道が混成する効果を取り入れることで, より現実的なモデルを構築し, 信頼性の高い計算手法で有限温度磁気特性を解析する. まず, Nd2Fe14Bを対象として, 局在4f電子と伝導電子が磁気的相互作用をもつモデルを構築した. このモデルを用いて有限温度の磁化曲線について調べた結果, スピン再配列転移を再現することを明らかにした. また, 4f電子が比較的良く局在した状況が実現しているとされるSmFe12やSm2Fe17系化合物の有限温度磁気特性について調べた結果, 実験と比較可能な結果が得られることを明らかにした. これらの成果は論文として出版されている. さらに, 4f-3d軌道の混成が強いとされるCe系遷移金属化合物については, その軌道の混成効果を取り入れた微視的有効モデルを構築し, その有効性を検証した. その結果, Ce2Fe14Bにおいては混成が強まると磁気異方性が低下することを明らかにした. 一方で, 希土類比率の大きいCeCo5化合物においては, 混成が弱いところでは面内磁気異方性、混成が強いところでは一軸磁気異方性が発現することを明らかにした. これらの結果から, 特定のパラメータ領域において実験で観測されている有限温度の磁気異方性を定性的に説明することが可能になった. また, 希土類イオンの4f電子が担う磁気異方性の解析的な表式を導出し, 複雑な理論 模型に磁気異方性の効果を取り入れることが容易となった.
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