研究課題/領域番号 |
18K04690
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小野田 雅重 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30177282)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 機能性セラミックス / 熱電変換材料 / 2次電池用正極活物質 / 量子スピン系 |
研究実績の概要 |
前年度に続き,バナジウムセラミックスを主対象に機能性物質系(熱電変換材料,2次電池正極活物質),相関電子系,量子スピン系等の研究を進めた. 1) 熱電変換材料(相関電子系):β'相CuxV2O5(x=0.4)においてCu-LiおよびCu-Ag置換系を作成し,それらのX線粉末回折,X線4軸回折,電気抵抗率,熱電能,帯磁率を測定した.Cu-Li混合系における酸素欠損の出現,Cu-Ag混合系における新型のブロンズ構造の形成に関しデータの追試および精密化を行った.またAg純粋系が,Cu純粋系に匹敵する低い電気抵抗率および大きな熱電能を示すことが明らかになった. 2) 2次電池正極活物質:複合結晶α相CuxV4O11(2<x<2.33)から,ソフト化学法によりCuを部分的に脱離することによって得られるβ相CuxV4O11(1<x<2)の充放電過程における結晶構造の安定化を目指し,α相においてV-Nb等の部分置換を行い,それらの充放電特性を測定した. 3) 2次電池正極活物質関連の量子スピン系:ソフト化学法により作成した2次電池用正極活物質相ε相LiV2O5の帯磁率の振る舞いから示唆されたスピンギャップの存在を追究するためにLi核およびV核のNMRを測定した.また,2010年に開発したLi9V3(P2O7)3(PO4)2およびそのLi脱離相(充電相)で明らかにした新規物性を契機として,1イオン軸対称異方性Dを持つXXZハイゼンベルグモデルにおけるxy面磁性の基本理論を構築した.整数・半整数スピン系の磁気的性質の本質的相違を指摘し,整数スピン系の性質に対するスピンゆらぎの効果を解明した. 4) 固体電解質:有力な固体電解質の候補である錯体水素化物Li(BH4)1-xIx(x=1/4)に関し,Li核およびB核のNMRを測定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1) 熱電変換材料:β'-CuxV2O5(x~0.4)におけるCu-LiおよびCu-Ag置換系の単相試料および単結晶を作成し,それらの基本物性を詳細に検討している.本研究の契機となった熱電変換性能の向上に関し,Ag純粋系においてCu純粋系に匹敵する高い性能を見出すことができた. 2) 2次電池用正極活物質:α相CuxV4O11(2<x<2.33)の元素置換系作成を進め,単相試料を得ることに成功した.現在,それらの充放電特性を評価している. 3) 2次電池正極活物質関連の量子スピン系:ε相LiV2O5において示唆された新しい量子スピン現象に関し,微視的追究を進めた.また,1イオン軸対称異方性Dを持つXXZハイゼンベルグモデルにおけるxy面磁性の基本理論として,本モデルの磁気的性質が,系の次元に依らず,整数・半整数スピンで本質的に異なることを平均場近似によりはじめて指摘した.すなわち,整数スピン系では,長距離秩序発生に関し交換相互作用の臨界値が存在し,常磁性相-秩序相間で量子2次転移を示すのに対して,半整数スピン系ではそのような臨界値が存在せず必ず秩序相に転移すること等を明らかにした. 4) 固体電解質:次世代型2次電池の構築にあたっては,正極活物質のみならず固体電解質の高性能化が必要不可欠である.現在の候補物質に対し,NMRの手法によりLiイオンの環境とダイナミクスを明らかにし,将来の設計指針を構築することは重要である.NMR実験は進行中であるが,候補物質が湿度に極めて敏感であるため,NMR解析に必要な精密な結晶構造データを得るまでには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
1) 熱電変換材料:β'相CuxV2O5(x~0.4)におけるCu-LiおよびCu-Ag置換系の構造・物性研究をさらに進める.特にAg純粋系のAg濃度依存性を重点的に行う. 2) 2次電池用正極活物質:安定な充放電特性を示す物質構築を目指して,α相CuxV4O11(2<x<2.33)のV-Nb置換等の作成を推進する.また,Liドープ量に応じて種々の相に転移するために2次電池の高容量化が困難とされてきたV2O5に対しても,同様の元素置換を試みる. 3) 2次電池正極活物質関連の量子スピン系:特にε相LixV2O5のLiおよびVのNMRに基づき,新しい量子スピン現象に関するスピンダイナミクスを明らかにする.1イオン軸対称異方性Dを持つXXZハイゼンベルグモデルにおけるxy面磁性の基本理論を土台に,Li9V3(P2O7)3(PO4)2のLi脱離相(S=1/2ドーピング相)における強磁性相の出現を理論的に解明する. 4) 固体電解質:精密な結晶構造データを得るには単結晶構造解析が最良であるが,これは困難であることがわかった.粉末構造解析に基づき,LiおよびBのイオンダイナミクスを詳細に検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
1) 初年度は民間からの研究助成および民間との共同研究により実験遂行費の支出が抑えられた.当初購入予定であった備品USBパルサー&ADに関しては,それを導入することにより,新たにNMRシステムの他の部分を変更する必要があるため,現在の実験を優先させ購入を保留している.また超伝導マグネットに問題が発生したため,その点検・修理を検討中である. 2) 本研究を遂行する際の主力装置の一つであるNMRシステムを連続稼動したことにより,寒剤費に対して当初の予算額を超えたが,物品費およびその他の消耗品費等を調整することで遅滞なく研究を進めることができた. 3) X線4軸回折システムの製造・保守業者の都合によりシステムの消耗部の再生が困難になり,高額な代替品を設置する可能性が高い.研究の進捗状況に応じて予算の一部を代替品の購入に充てる予定である.
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