研究実績の概要 |
「第四の科学」であるデータ科学は材料探索を含めた多くの分野に活用されつつあるが、 表面特性の理論計算には適用できなかった。本研究では、代表者が開発した、原子レベルの結晶表面モデルの自動生成手法を用い、また発展させ、特に「イオン化ポテンシャル(ionization potential, IP)」の計算に注力した。水分解光触媒ではIPが5.67eV以上という絶対条件があるため、水分解触媒探索を当初の目的とした。 二価・三価カチオンを含む二元系酸化物について、第一原理計算を用いてIPを求めたところ、原子の大きさ(原子あたり体積の三乗根)の逆数とIPの間にほぼ線形の相関が得られることが判明した。また、30種のバンドギャップを有する二元系酸化物の表面について、電子親和力と酸素脱着エネルギーについて、ある程度の相関が見られることを示した。酸素脱着エネルギーはH2等の小分子吸着パターンと吸着エネルギーに強く影響することが判明したため、光触媒表面での反応を制御する際にこの値の考慮を要する。 最安定のみならず多様な表面の安定性を評価するデモンストレーションとして、β-Ga2O3とθ-Al2O3の実験的に得ることができそうな表面を得た。実現可能性が低い表面を弾けるようになったことは、実現可能性の高い表面を計算で集中的に予測する点では大きな進歩である。結果的に水分解触媒候補の発見に至らなかったものの、表面モデルの計算に関する手法が開拓された。また、科学的な「問い」である「IPを決める要素は何か?」については、「原子の大きさが主要な要素である」との答えが得られた。 本来はFY2020が最終年度であったが、コロナ禍による研究成果の発表機会の激減のため、補助事業期間延長を行った。延長期間であるFY2021では、FY2020までの研究成果のオープンアクセス化など、当初の研究機関までに得られた成果の公表に努めた。
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