水素化物イオン(ヒドリド)は、酸化物イオンをはじめとする一般的なアニオンと比べ、大きな負の酸化還元電位やp電子を持たないことなどの特徴を有する。例えば酸化物イオンと水素化物イオンが共存する酸水素化物では、このヒドリドの特徴に由来し、高い触媒能、特異な電子物性、水素化物イオンと他種アニオンとの交換反応などが実現する。本研究では水素の性質に着目し、酸水素化物をはじめとする水素を豊富に含む新規化合物の探索を行っている。 水素化物イオンは容易に水素ガスとして離脱するため、本研究では合成に密閉セルを用い、これに原料を封じて高温高圧環境下で反応させることで物質探索を行った。物質探索の結果、前年度までに水素を豊富に含み特異な結晶構造を有する新規チタン水素化物の合成に成功した。同物質は絶縁体であるが、価電子帯上端が2次元的な電子状態を有することが第一原理計算より示唆されたため、新奇な超伝導の発現を期待してダイヤモンドアンビルセルを用いた圧力印加実験を行ったが、金属化・超伝導化は見られなかった。 新規水素化物に加えて、新たな遷移金属酸水素化物の合成にも成功した。エックス線および中性子の回折実験から結晶構造解析を行った結果、従来のペロブスカイト型酸水素化物と類似する構造を有する一方で、ヒドリド量は従来の酸水素化物よりも1.5倍から2倍と高濃度であることがわかった。遷移金属サイトの元素置換によってバンド絶縁体から磁性体まで物性を制御することができ、今後イオン伝導性や触媒能など機能性材料としての展開が期待される。
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