研究課題/領域番号 |
18K04695
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
上原 政智 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (60323929)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Ln4Ni3O8 / superconductivity / layerd Ni oxide |
研究実績の概要 |
本研究では、極めて銅酸化物超伝導体と結晶構造・電子的舞台が似ている2つの物質をとりあげ、キャリア注入、圧力印加などにより徹底的に銅酸化物と近い結 晶構造・電子的舞台設定を作り銅酸化物でなくとも高温超伝導は実現可能なのか?という疑問に答えることである。取り上げる物質はLn4Ni3O8、Ln2PdO4であ る。 1.Ln4Ni3O8 この物質は2次元NiO2面を含み銅酸化物超伝導体と構造上、電子構造上、極めて類似している物質である。しかし、過剰酸素が存在するため金属 化・超伝導化が妨げられていると考えられる。我々独自の硫黄を用いた熱処理によりNd4Ni3O8試料において約20Kまでは金属化できているが、それ以下では電気 抵抗は半導体的に上昇する。これは過剰酸素の除去が不十分な為であると考えられる。この過剰酸素の完全除去を目指し、Nd4Ni3O8のNdをイオン半径がより大き いPrで置換した。その結果過剰酸素のないクリーンなNiO2面が実現できたが超伝導は観測されなかった。Niの形式価数は銅酸化物超伝導体と比較すると“過剰ドープ”状態にあり銅酸化物超伝導体を完全に模倣することはできていない。そのためキャリア量調整が必要であるが、2つあるNiサイトの一方のみへの選択的元素置換によるキャリア量調整に成功した。 2.Ln2PdO4この物質も2次元PdO2面を含み銅酸化物超伝導体と構造上、電子構造上、極めて類似している物質である。反応性の悪い本物質の合成をメカニカルミ リング法で行うのであるが、Lnの種類によってはミリングの容器の素材が混入してしまうことが分かり、現在どのような素材のミリング容器を用いたらよいのか 引き続き検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 1.Ln4Ni3O8 年次目標:前年得たクリーンなNiO2面に対し電子状態をHTSCに徹底的に近づけ本物質が高温超伝導材料と成るか?の結論を得る。 前年までにPr4Ni3O8においてクリーンなNiO2面を持つ試料をえることができた。しかしながら、この試料ではNiの形式価数は銅酸化物超伝導体と比較すると“過剰ドープ”状態にあり超伝導を示さないのは銅酸化 物高温超伝導体と同じ振る舞いでもある。これをうけ、今年度はキャリア量調整を試みた。銅酸化物超伝導体の最適ドープ領域とするためには電子ドープが必要である。具体的には2つあるNiサイトの内、片方だけに様々な3d, 4d遷移金属元素をドーパントとして導入することを試みた。この中で特にCo3+は容易に置換することができた。電気伝導も低温まで金属的なふるまいを示すことから、特定のNiサイトだけを置換し、クリーンなNiO2面は維持されていると考えられる。現在のところ超伝導は発現していない。完全に選択的ドープができているかドーピングサイトの特定が重要で、これは放射光X線回折実験、XPS、XAFS実験を計画している。これらの結果をフィードバックとし、選択的元素置換が不十分な場合は試料合成条件の見直しを進めていく。またキャリア量調整の方法として、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタ型デバイスを作製し電界効果ドーピングも試みる。
2.Ln2PdO4 年次目標:メカニカルミリングによる合成の最適化を行う。 反応性の悪い本物質の合成をメカニカルミリング法で行うのであるが、最適化条件を様々に試す実験において、Lnの種類によってはミリングの容器の素材が混入 してしまうことが判明した。現在もどのような素材のミリング容器を用いたらよいのか検討中であり、こちらの計画はやや遅れ気味となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1.Ln4Ni3O8 今後の目標:前年得たクリーンなNiO2面に対し電子状態を銅酸化物に徹底的に近づけ本物質が高温超伝導材料と成るか?の結論を得る。対象は Pr4Ni3O8に絞る。現在過剰酸素の存在しないクリーンなNiO2面に対し、高温超伝導体の電子状態に近付けるため、キャリア量調整を行っている。キャリア量調整の方法は2つあるNiサイトの片方を元素置換サイトとし、クリーンなNiO2面を保ったまま、元素置換によりキャリア量調整の調整を行うことである。Co3+が容易に置換できることが分かったが超伝導は現在のところ発現していない。完全に選択的元素置換が行われているか確かめる必要がある。他のキャリア量調整の方法として、電界効果ドーピングも試みる予定である。また、Niの軌道エネルギーはCuより1 eV程度高く、O-2pとの混成が銅酸化物より弱い。よって物理圧力印加によ り混成を強くし銅酸化物の電子状態に近づけることも有効だと思える。物理圧力印加はキュービックアンビル高圧発生装置により行う。
2.Ln2PdO4 今後の目標:メカニカルミリングによる合成の最適化を行う。電子キャリア注入及び化学圧力の強弱を変化させる事により電子的舞台を銅酸化物 に徹底的に近づけ本物質が高温超伝導材料と成るか?の結論を得る。 現在の所、試料合成時にミリング容器の素材が混入するということが大問題となっており、研究を進めることの障壁となっている。場合によってはソフトケミカル的手法を使うなど合成法を根本的に見直す必要があるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、日本物理学会第75回年次大会の現地開催が中止になったため、旅費に余剰金が生じた。この余剰金は、余裕をもった原料試薬や実験消耗費の購入に充てたい。
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