研究課題/領域番号 |
18K04697
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
村松 寛之 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (70509984)
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研究分担者 |
林 卓哉 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (80313831)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / ドーピング / ホウ素 / 熱電特性 |
研究実績の概要 |
令和元年度は主に2層カーボンナノチューブへホウ素ドーピングを行い、その構造と特性の解析を主として研究を行った。2層カーボンナノチューブへのホウ素ドーピング処理は2層カーボンナノチューブマットと炭化ホウ素をグラファイト加熱炉を用い高温加熱下(1400~1600℃)で反応させることで行った。また実験の際にはナノチューブマットと炭化ホウ素が混入しないように工夫することで高純度サンプルを調整した。透過型電子顕微鏡観察の結果、1400℃までは同軸2層構造に明らかな変化が見られず、1500℃のドーピングからチューブ間の融合が確認された。ラマン分光分析結果により、1400℃において構造欠陥に起因するDピークの増大が確認され、また内層に起因するRBMピークは変化が少ないことから、外層チューブへのホウ素ドーピングを示唆している。また蛍光分光分析と分光光度計による解析結果により、内層チューブへの電子特性の影響はドープ温度が1400℃ではほとんどなく、1500℃では大きな特性変化があることが分かった。またXPS解析により、1400℃ではホウ素が極微量(0.17at.%)確認された。しかしながら炭素網面への固溶置換型のホウ素は検出限界以下だった。一方、UPSによる分析の結果、1400℃のドープで仕事関数の増大が確認された。これは、2層カーボンナノチューブの外層に極微量のホウ素がドーピングされたためであると考えられる。また熱電特性測定結果により、1400℃でホウ素ドープした2層カーボンナノチューブが特にゼーベック係数の向上が確認された。これは内層チューブの特性を保持したまま、外層チューブへのホウ素ドープによる電子状態の変調に起因すると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果として、2層カーボンナノチューブの外層への選択的なホウ素ドーピングに成功して、その構造と特性を詳細に分析することが可能となった。それにより外層チューブへホウ素ドープを施すことで、外層チューブの選択的な電子特性変化が確認できた。一方、内層チューブにおいては分光学的手法では特性変化が観察されなかった。このことから内層チューブの特性を保持したまま、外層チューブの選択的電子特性変調が行えたと考えられる。また詳細な透過型電子顕微鏡観察により、外層チューブに選択的ホウ素ドープを施したナノチューブにおいて、同軸構造が保持されていることが確認することができた。一方1500℃以上のホウ素ドーピング処理ではチューブ間の融合現象の発生が確認でき、内層チューブにもホウ素がドーピングされることを明らかにすることができた。また熱電特性を測定した結果、外層への選択的ホウ素ドープがその特性向上に寄与することを、発見することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ホウ素ドーピングを選択的に2層カーボンナノチューブの外層に行うことができた。また、本実験手法により行ったホウ素ドーピング処理では、選択的に2層カーボンナノチューブ外層へのドーピング濃度が予測値として0.1at.%以下と極微量であった。今後は、さらなる高濃度ドーピングによる物性変化の検討を行っていく。またホウ素ドーピング処理による、2層カーボンナノチューブへの電気化学触媒活性の影響も構造・物性との影響を体系的に考慮しつつ解析する予定である。
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