研究課題/領域番号 |
18K04698
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
坂本 渉 中部大学, 工学部, 教授 (50273264)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 無鉛圧電セラミックス / 耐還元性付与 / 酸素分圧制御 / 粒成長促進剤 / 結晶配向付与 / 圧電特性 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、低酸素分圧下での焼成を可能にする耐還元性を有し、かつ大気雰囲気焼成試料と同等の優れた電気的特性を発現する無鉛圧電セラミックス材料を開発するための研究をBaTiO3系を中心に行った。はじめに、試料焼成時の還元雰囲気の制御を再現性よくかつ正確に行えるような酸素分圧制御法の確立に注力した。ここでは、CO2-H2混合ガス系における平衡反応を応用したCO2-H2-Ar混合ガス雰囲気を用いることで、圧電酸化物セラミックスとNi卑金属電極との同時焼結を想定した Ni + 1/2O2 → NiO 酸化反応における各焼結温度域での平衡酸素分圧に対して高精度な酸素分圧制御(例えば、焼結温度を1350℃としたときの平衡酸素分圧の1/100の酸素分圧に制御)を実現した。なお、酸素分圧のモニタリングには、ジルコニア式酸素センサーシステムを使用して制御の正確さを証明できるようにした。また、優れた圧電特性を示す(Ba,Ca)(Ti,Zr,Sn)O3系組成においては、Ni金属の融点以上での焼結温度を必要とするものもあるため、より低い温度域で十分に粒成長を進行させ、高密度に焼結した試料を得るための鍵となる添加物(焼結助剤)としてのLi2CO3の効果を明らかにした。添加されたLi2CO3は1000℃以下の温度域から試料中に液相を生じて粒成長を促進し、その後焼結温度域となる高温域では大部分のLi成分が揮発により試料より除去されるという挙動も微構造観察と化学組成分析により明らかとした。このLi2CO3の添加量を最適化(最適値:約3 mol%)することにより、Ni金属の融点よりも低い温度域である1200℃~1350℃の焼結温度で、鉛系圧電セラミックスに匹敵するような圧電定数値を示しかつ還元雰囲気焼成した場合にも大気雰囲気焼成と同等の電気的特性を発現する試料の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の本研究課題の進捗状況については、試料焼成時の還元雰囲気の制御を再現性よくかつ正確に行えるような酸素分圧制御法の確立ができたこと、セラミックス試料の粒成長促進剤の選択とその添加量の最適化により、Ni金属の融点よりもかなり低い温度となる焼結温度域でも、鉛系圧電セラミックスに匹敵するような圧電定数値を示す試料の作製を可能とし、かつ還元雰囲気焼成した試料において大気雰囲気焼成試料と同等の圧電特性を達成することに成功したため、ほぼ順調に遂行できていると考えられる。また、ここで得られた知見(研究成果)をよりキュリー温度が高いNaNbO3系強誘電体化合物を中心とした材料系にも適用するための道筋を明らかにすることもできた。さらに、耐還元性を有する無鉛多結晶セラミックス材料の機能を最大限に(単結晶に近いレベルまで)高めるセラミックス中の結晶粒子の成長方位を制御する技術としてのTemplated Grain Growth法を応用した粒子配向セラミックス作製に対しても、今回確立した還元雰囲気制御法と耐還元無鉛材料の粒成長促進による焼結挙動の制御は目標とする耐還元粒子配向無鉛圧電セラミックスの実現に向けて大きく貢献するものとなり得ると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度(令和元年度)以降は、よりキュリー温度が高いNaNbO3系強誘電体化合物系において鉛系圧電セラミックスに匹敵するような特性を示す組成系を探索しながら耐還元性の付与を行う。これに加え、BaTiO3 系と同様に還元雰囲気焼成した試料における大気雰囲気焼成試料と同等の圧電特性の達成を目指す。同時に、ここで開発された耐還元性を有する多結晶セラミックス材料の機能を最大限に(単結晶に近いレベルまで)高めるため、セラミックス中の結晶粒子の成長方位を制御する技術(Templated Grain Growth法)を応用した粒子配向セラミックスの作製について検討を行う。特に、結晶配向を付与するための鍵を握るシード結晶となるアスペクト比の大きな板状粒子の合成条件については、板状ビスマス層状ペロブスカイト酸化物前駆体粒子の合成および板状ペロブスカイト酸化物粒子を得るトポケミカルマイクロクリスタルコンバージョン反応の条件(フラックス剤の効果、組成変性効果、加熱処理条件の効果など)について調べ、望む粒径とアスペクト比を達成し、かつ最終生成物中の不純物元素濃度をできる限り低くするための方策について、結晶構造解析、微構造観察、化学組成分析により明らかにしていく。粒子配向試料作製については、各組成系に対して粒成長促進剤を駆使した焼結挙動の制御を行い、高配向性を有する耐還元粒子配向無鉛圧電セラミックスの作製を目指す。また、粒子配向セラミックスの結晶配向度、微構造、電気的特性を詳細に調べることで作製プロセスの最適化を行い、粒子配向性・分極状態と誘電特性・強誘電特性・圧電特性の解析データとの関係性から特性向上のための因子を明らかにする。さらに、実際の積層型圧電素子を想定した際に重要となる卑金属電極材料との同時焼結を行い、これに関する問題点(電極との界面の評価を含む)と改善点を明確にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行のため当初購入を予定していた備品類が事前に調達できたため、そのために支出額が少なくなり次年度使用額が生じた。次年度以降に新たな試料作製・評価用装置の購入と計画よりも多くの試料作製・評価用の消耗品類の購入を予定しているためこれに使用する。また、計画よりも研究成果発表用の費用(旅費)も大きくなる可能性がありこれにも充てる予定。
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