研究課題/領域番号 |
18K04710
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 崇史 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (40532908)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノシート / 磁気物性 / 光化学反応 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、磁性を示す層状化合物を単層剥離させた磁性ナノシートを創出によって、次世代を担うスピントロニクスデバイスを開発することを目的としている。2019年度は、磁性ナノシートの母物質として、(1) 磁性イオンを含む層状複水酸化物、(2) 層状構造を有する遷移金属リントリカルコゲナイド、の2種類を取り扱った。具体的には、(1) に関しては半導体性ナノシートとの複合化に伴った光磁気物性のメカニズム解明を詳細に検討した。また、(2) に関しては、磁性イオンを含む遷移金属トリカルコゲナイドナノシートの合成と構造評価を検討した。 (1) 層状複水酸化物ナノシートの光磁気物性のメカニズム解明 2018年度に、CoおよびNiイオンを含む層状複水酸化物 (Co-Ni LDH) ナノシートと半導体性チタン酸 (TO) ナノシートを交互積層させた構造体 (Co-Ni LDH/TO) において、紫外光照射を行うことによって垂直磁気異方性が増強できることを明らかとした。そのメカニズムを解明するために、(a) 光応答しないアニオン性高分子を用いた構造体の作製、(b) X線光電子分光法による金属イオンの価数同定、(c) 電気化学測定によるエネルギー状態の見積もり、を行った。その結果、Co-Ni LDH/TO における垂直磁気異方性の光増強は、TO ナノシートのバンドギャップ励起によって生成した励起電子が Co-Ni LDH ナノシートに注入され、Coイオンが還元されるためであることが実験的に明らかとなった。 (2) 遷移金属リントリカルコゲナイドナノシートの合成 磁性イオンとして鉄を含む遷移金属リントリカルコゲナイド (FePS3) に関し、良質な層状結晶が得られる条件を検討した。これまでのところ、温度勾配に加えて反応時間を長くすることが効果的であることが明らかとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、次世代エレクトロニクスを支える候補物質として有力視されている無機ナノシートに関し、スピントロニクス分野への応用を見据えた無機ナノシートの光磁気物性を開拓することを目的としている。特に、磁性イオンを含む層状化合物を母物質とすることによって、層間への機能性分子のインターカレーションや単層剥離によって得られるナノシートを積層させた構造体における光磁気物性を発現させることを最終目標としている。 2019年度は、層状化合物として磁性イオンを含む層状複水酸化物 (LDH) に加え、遷移金属リントリカルコゲナイド (MPS3) に着目して研究を遂行した。CoおよびNiイオンを含むLDHナノシートと半導体性チタン酸ナノシートの交互積層体における垂直磁気異方性の光増強に関しては、各種分光測定に加えて電気化学測定を通じてメカニズムを明らかとした。 また、新しい材料として磁性イオンとして鉄を含む遷移金属リントリカルコゲナイド (FePS3) に着目し、良質な層状結晶が得られる条件、つまり重要な合成パラメーターのいくつかを明らかとした。2020年度の研究では、良質なFePS3層状結晶に対して様々な方法で単層剥離を試み、得られるFePS3ナノシートの磁気物性を探索していく。 以上のように、磁性イオンを含むLDHに関し、当初の研究計画は達成できていることに加え、新しい磁性ナノシートの合成の目処が立ったことから、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は以下に挙げる項目に関して重点的に研究を遂行する。2019年度の研究において検討した、磁性イオンとして鉄を含む遷移金属リントリカルコゲナイド (FePS3) の合成とナノシート化に取り組む。 これまでにナノシート化に資する良質なFePS3層状結晶を再現性よく合成することがある程度達成されていることから、第1に、FePS3のナノシート化に関し、結晶サイズが維持されるような条件を検討していく。その際、遷移金属ジカルコゲナイドの液相単層剥離の条件を参考とし、例えば、(1) 反応媒体、(2) 反応時間、(3) 反応温度、などを系統的に探索する。第2に、得られたFePS3ナノシートに関し、原子間力顕微鏡を用いた構造観察を行う。この際、ナノシートの横サイズ (幅) のみならず高さ (厚さ) の値を評価対象都市、得られた結果をナノシートの合成条件にフィードバックしながら光磁気物性の探索に適したナノシート試料の合成を目指す。 首尾よく良質なFePS3ナノシートが得られた場合は、異なる無機ナノシートと交互積層させた構造体を作製し、FePS3ナノシートの磁気物性を探索する。特に、異種ナノシートとして半導体性チタン酸ナノシートを用いる場合、FePS3ナノシートの磁気物性を光変調させることを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は当初の計画で計上していた支払い請求額を下回る支出となった。これは、当初の計画で計上していた旅費を全く使用しなかったためである。これは、2018年度の研究成果を学術誌論文としてまとめるための実験、データ整理、論文執筆に注力したからである。 以上が、当初の計上額よりも支出額が減り、次年度使用額が生じた理由である。
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