研究課題/領域番号 |
18K04712
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
田中 優実 東京理科大学, 工学部工業化学科, 准教授 (00436619)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炭酸アパタイト / 酸化物イオン伝導 / セラミックス / 固体電解質 / ドーピング / イオン伝導機構 |
研究実績の概要 |
水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)のPO43-の一部をCO32-で置換し、電荷補償のためにCa2+の一部をNa+で置換した「Na添加B型炭酸アパタイト(Na-BCA)」は、600~800℃で10-4~10-3 S/cmの比較的良好なO2-伝導を示す。また最近、Na-BCAのOH-の一部をF-で置換したNa-FCAにおいて、550℃付近で特異な導電率の向上が生じ、600℃以上で10-2 S/cmオーダーの高い導電率に至ることが見いだされた。そこで本研究では、FCAを含むBCA系セラミックで現在明らかとはなっていないO2-伝導機構を解明し、500~600℃で10-2 S/cmを実現するBCA系電解質の設計に繋げること、さらにSOFC等の実用デバイスに対するBCA系電解質の適用について検討することを目的とした。この達成に向けた本年度の実施項目及び成果の概要は以下のとおりである。 ・第一原理計算に基づくNa-BCAのイオン伝導機構の検討:大阪大学接合科学研究所の設楽助教の協力のもと、Na-BCAの欠陥構造について第一原理計算に基づく検討を行い、CO32-/Na+間に欠陥会合が生じていること、CO32-由来の酸素空孔にOH-サイト由来のO2-が移動する可能性があることを見出した。 ・一価カチオンがFCAの導電挙動に及ぼす影響に関する検討:Na-BCAに対する第一原理計算より予測されたCO32-/Na+間の欠陥会合がNa-FCAの特異な導電率挙動に及ぼす影響を検証するため、Na-FCAに加えてK系及びRb系FCA(K-FCA、Rb-FCA)を合成し、各試料の導電挙動を比較した。結果、一価カチオンのイオン半径と導電率の立ち上がりが生じる温度の間に正の相関があることが示され、FCAで見られる特異な導電率挙動に、CO32-/M+間の欠陥会合とその解離が関係している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FCAを含むBCA系セラミックのO2-伝導挙動に対して、CO32-によって置換されたPO43-サイト近傍の酸素空孔のみならず、CO32-とカウンターカチオンとの欠陥会合構造が大きく影響している可能性を実験、理論の両面から示すことに成功した。これは、BCA系セラミックのO2-伝導機構の解明を目指す上で大きな成果である。BCA系セラミックを電解質とするSOFCの発電評価については、現在、再現性ある発電試験結果を提示する段階には至っていないが、評価系の構築は着実に進めている。以上の状況を踏まえて、本研究の初年度の進捗としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
・Na-BCAのイオン伝導機構に関する検討:合成実績のあるNa-BCAを対象に、実験結果に基づく詳細な構造解析を行い、各試料の結晶構造内でキャリアとなり得るO2-イオンとその拡散経路を特定する。さらに、実験結果と理論計算の結果との対比により、BCAに対する信頼性の高いO2-イオン伝導機構の提案につなげる。 ・BCA系試料群の組成が導電挙動に及ぼす影響に関する検討:初年度に引き続き、BCA及びFCAへの系統的な一価カチオン置換(アルカリ金属イオン及びAg+)を試みるとともに、計算的手法を取り入れつつ、置換率や置換カチオンの性状の違いが欠陥構造及びイオン伝導特性に与える影響について検討する。また、OH-サイトのアニオン置換(F-、Cl-、O2-)の影響についても同様に検討する。第一原理計算に関しては、引き続き、大阪大学の設楽助教による助言と協力を仰ぐ。 ・Na-FCAセラミックを電解質とするSOFCの構築と発電特性評価:600℃以上で10-2 S/cmオーダーの高い導電率を示すNa-FCAセラミックを電解質としたSOFC評価系を構築し、発電特性を評価することで、実用デバイスに対するBCA系電解質の本格的な導入に向けた指針の構築につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度内に納品・支払い予定であった特注備品について、設計・制作に時間を要し、3月末までの納品に間に合わなかったことから、2018年度予算の使用額が当初予定よりも少なくなった。2018年度予算の繰越分は、2019年4月に納品予定の当該備品の購入費に充てる計画である。
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