研究実績の概要 |
2019年度は以下の項目について検討を行った。 ①ペロブスカイト型酸窒化物LaMO2N(M=ZrまたはHf, LZON, LHON)は、バンドギャップエネルギー(Eg)が約3.0eVであり、近紫外光励起可能なf-f発光型蛍光体として期待できる。まず両試料について、還元剤として活性金属(Mg, Al)を用いてアンモニア窒化処理を行ったところ、従来の単純なアンモニア窒化処理に比べて短時間かつ高純度単相試料の作製に成功した。合成した両試料はいずれも灰白色の粉末であり、光吸収スペクトルからいずれも3.0eV前後のEgであることがわかった。このことから希土類イオンを賦活することで、近紫外光励起によるf-f発光の発現が期待される。 ②第5族d0カチオンを中心金属としたパイロクロア型酸化物Ca2Bb2O7(B=Nbまたは Ta, CNO, CTO)をホスト物質として、Pr3+を賦活した蛍光体試料の作製ならびに発光特性評価を行った。水溶液法を用いて作製した単相試料の光吸収スペクトルから、CNOのEg(4.4eV, 283nm)は、CTO(4.9eV, 254nm)に比べて小さくなることを確認した。これは、中心金属であるNb5+とTa5+の電気陰性度の違いによると解釈できる。また両試料の励起・発光スペクトルを測定したところ、CNO:Pr3+では励起波長320nmにおいてPr3+の4f軌道の1D2を励起準位とするシャープな赤色発光(615nm)を示すのに対して、CTO:Pr3+では励起波長258nmにおいてPr3+の4f軌道の3P0を励起準位とする複数の発光ピーク(490~657nm)を示した。同じパイロクロア相でありながら、CNO:Pr3+の励起波長がCTO:Pr3+に比べて長波長側へシフトした理由としては、Eg間の電子遷移に基づく励起機構との関係が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由から、当初の計画通りにおおむね順調に進展していると判断する。 ①従来の単純なアンモニア窒化処理では単相試料合成が困難であったLa系ペロブスカイト酸窒化物LZONおよびLHTONについて、活性金属を用いたアンモニア窒化処理を行うことで、短時間かつ高純度での試料合成に成功した。両物質のバンドギャップエネルギーは近紫外光領域に相当することから、LZONおよびLHONへの希土類イオンの賦活条件を最適化することで、近紫外光励起によるf-f発光の発現が期待できる。 ②アンモニア窒化処理時に還元剤として活性金属を用いることで、これまで合成例がない新しい酸窒化物の作製にも適用でき、f-f発光型蛍光体のホスト物質の探索の進展が期待できる。 ③難水溶性金属であるTi4+, Zr4+, Hf4+, Nb5+, Ta5+, Sn4+の水溶液化はほぼ完了していることから、これらの水溶性金属錯体を出発原料にして、水溶液法による試料作製を検討することで、複合酸窒化物試料の高純度化ならびに希土類イオンを賦活した蛍光体試料の発光特性の向上が期待できる。 ④研究全般において学生ならびに研究協力者との連携は十分にとれている。
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