研究課題/領域番号 |
18K04718
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
信太 祐二 北海道大学, 工学研究院, 助教 (80446450)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 水素透過 / 水素ガスバリア / ヘリウム照射 / 照射欠陥 / ステンレス鋼 |
研究実績の概要 |
水素は金属を透過しやすいため金属水素容器からの水素の漏洩を抑制する機能,いわゆる水素ガスバリア機能の需要が高まっている。水素透過を抑制する技術としてセラミック膜などをコーティングする手法が主流になっているが,コーティング法はクラックや剥離などの潜在的な弱点が存在する。本研究では,ヘリウム照射により形成される照射欠陥層が水素の移動を妨げる性質を利用し,水素容器として広く使用されているステンレス鋼の水素透過を低減させる手法の開発を目指している。この手法は金属そのものを水素が透過しづらい性質に変えることができ,またコーティング法と組み合わせることができるというメリットがある。 本研究では,まずステンレス鋼に対しヘリウムグロープラズマを曝露することでヘリウムイオンを照射し,重水素透過速度の変化を調べた。ヘリウム照射面を高圧の重水素ガスに曝し,高真空に保った下流側に透過した重水素を四重極質量分析器で検出することで重水素透過を測定した。本実験で用いたヘリウム照射量では,照射量が増えるとともに透過速度が減少した。透過型電子顕微鏡によりヘリウム照射後の表面断面観察を行った結果,ヘリウム気泡などの欠陥が確認された。このことから,照射欠陥による重水素の捕捉や圧縮場の形成による拡散の抑制が透過を低減させている可能性が示唆された。 室温でヘリウム照射したステンレス鋼の透過曲線をみると,透過速度がいったん上昇しその後減少するという挙動,すなわち透過速度のピークが観察された。一方,高温(473K)で照射した場合はこのようなピークは見られなかった。以上から,高温で照射することで高温でも安定な水素ガスバリア層が形成されることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,ステンレス鋼に対し異なる照射量および照射温度でヘリウムグロープラズマ照射を行い,種々の照射条件による重水素透過速度の変化および重水素透過と照射欠陥形成の関連を評価することができた。ここまでは数100eV程度のヘリウムイオン照射を行ってきたが,次のステップとしてより高エネルギー(数keV)の照射実験をすでに開始している。以上のことから,おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでは低エネルギー(数100eV)のヘリウムイオンをステンレス鋼に照射し,重水素透過の変化と照射欠陥構造との関連を調べてきた。これにより,より高密度に照射欠陥が形成されることで重水素の透過が抑制されることが示唆された。したがって,より高密度で厚い照射欠陥層を形成すればさらに透過を低減できる可能性がある。今後の方策としては,照射エネルギーをこれまでより一桁程度大きくし(数keV),さらなる重水素透過の抑制を試みる。欠陥構造観察と組み合わせることにより,透過を抑制する最適な照射条件と透過抑制メカニズムの解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験で使用する治具や備品の加工および分析装置の使用をできるだけ学内の共同利用施設で行うことで経費を削減できたため次年度使用額が生じた。これらは次年度における新しい加熱機能付き試料ホルダの作成や国内・国際学会への参加に使用する予定である。
|