前年度までに,パルスレーザー堆積法を用いてアルミナ焼結体基板上にシリコン(Si)中間層と炭化ケイ素(SiC)薄膜を積層製膜することにより生理食塩水中での摩擦低減と耐摩耗性の向上,SiC薄膜コーティングによりタンパク質吸着や細胞初期接着の抑制,を明らかにした.そこで今年度は,SiC薄膜のシリコン(Si)と炭素(C)の組成比が生理食塩水中の摩擦摩耗特性に及ぼす影響を明らかにし,SiとCの組成比の最適化を目指した. 組成比の影響を検討するために,SiC焼結体ターゲットを用いたスパッタリング法により,SiC薄膜をアルミナ焼結体基板上とSi(001)基板上に製膜した.いずれの基板を用いた場合でも,スパッタリング法により製膜したSiC薄膜もまたパルスレーザー堆積法により製膜した場合と同様に,SiC焼結体ボールに対する生理食塩水中での摩擦係数が0.1程度に低減された.ただし,比摩耗量についてはSi(001)基板上に製膜したSiC薄膜の方が小さくなった.次に,SiとCの組成比を変えSiリッチSiC薄膜とCリッチSiC薄膜を作製するために,SiC焼結体ターゲット上にSiチップまたはCチップを置き,スパッタリング法によりアルミナ焼結体基板上に製膜した.作製した薄膜の化学組成を光電子分光法により分析し,SiリッチSiC薄膜とCリッチSiC薄膜が得られたことを確認した.生理食塩水中でそれぞれの薄膜とSiC焼結体ボールの摩擦摩耗特性を測定したところ,CリッチSiC薄膜の方が低摩擦・低摩耗を示すことが分かった.
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