研究課題/領域番号 |
18K04732
|
研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
桑折 仁 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (70327724)
|
研究分担者 |
加藤 雅彦 サレジオ工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (70450111)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 熱電変換 / Bi層状酸化物 / Aurivillius相 / 酸素イオン伝導 / 交流インピーダンス / 結晶育成 |
研究実績の概要 |
本研究では,絶縁層と導電層がナノ積層した結晶構造をもち,かつ電子よりも重いキャリアであるイオンをキャリアとするナノ積層イオン伝導体の熱電材料としての可能性を探る.これの実現のため, Aurivillius相(Bi層状酸化物)に着目し,結晶育成方法を検討し,結晶育成容器の検討,横型温度勾配凝固法による結晶育成条件検討および育成結晶の配向性を評価した.本年度は酸素イオン伝導体として知られるAurivillius相Bi2VO5.5の結晶を育成した. まず,結晶育成容器とBi2VO5.5の反応性を検討するためにマッフル炉を用いて各容器に入れた原料粉末を加熱し,溶融した.冷却後,生成物を観察し,酸化物と容器との反応性を評価した.その結果,Bi2VO5.5は石英ガラス,Zr,BNとの反応生成物が確認され,Pt容器との反応は認められなかった.これ以降はPtるつぼやPtボートを用いてBi2VO5.5の育成を行うこととした. つぎに,粗大な結晶粒を有するBi2VO5.5の結晶育成をねらい,既存の横型6分割電気炉を用いて,温度勾配凝固法で結晶を育成した.温度勾配は1 K/mmまたは2 K/mmとし,冷却速度は1K/h または1K/minとして結晶を育成した.Bi2VO5.5は温度勾配方向に心情に結晶が成長しやすいことが明らかとなった.そのため,温度勾配が小さく,かつ冷却速度が速い場合,針状結晶の寄り集まっている様子が確認され,結晶粒間に空隙も見られた.一方で温度勾配が大きく,冷却速度が遅い場合は針状ではなく粗大な結晶粒となった.この結晶について交流インピーダンス法により電気伝導性を確認したところ,温度勾配方法には伝導性を有していたが,温度勾配と垂直な方向は900Kにおいても絶縁的であった.このことから非常に高い配向性を有する結晶が得られたことが確認された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定ではタンマン法(温度勾配凝固法)で結晶を育成する予定であった.しかし,得られた結晶では熱電特性の異方性を測定できるほど十分な厚さを得ることができなかった.熱電特性を評価するには熱電能,電気抵抗率,熱伝導率を測定する必要があるが,とくに熱伝導率は外径10mmの円盤状に試料を加工する必要があり,温度勾配凝固法で得られた結晶ではその大きさに加工することができなかった.そこで,予定を変更し,垂直ブリッジマン炉を開発する.一般的な熱電材料では原料をガラスアンプルに封入し,このアンプルを炉内に設置し,徐々に降下させるブリッジマン・ストックバーガー炉が用いられるが,本年度の成果で得られたようにガラスとBi2VO5.5は反応してしまう.そのため,Ptるつぼを炉内に設置し,電気炉自体が徐々に上昇するブリッジマン炉を用いることとした.予算措置および構想設計の関係で研究初年度にブリッジマン炉は完成させることができなかったため,可及的速やかに研究2年目に結晶育成炉を完成させる予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
熱電特性の異方性を測定することができる程度の粗大な結晶粒を得るための垂直ブリッジマン炉を早急に製作する.溶融したBi2O3は高温大気中で加熱すると還元することが知られている.Aurivillius相Bi2VO5.5の合成のため,原料であるBi2O3およびV2O5を加熱する際に還元し,酸素欠損量にばらつきのある結晶が育成される恐れがある.そこで,雰囲気を制御するために石英等でブリッジマン炉内に設置するチャンバーを製作する.この炉を用いてAurivillius相Bi2VO5.5の結晶を育成し,育成条件をまず確立する.次に研究計画に沿って元素置換試料を作製し,熱電特性に対する元素置換の影響を精査する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた温度勾配凝固法で得られた結晶では十分な大きさの結晶が得られなかったため,予定を変更し,垂直ブリッジマン炉を製作することとした.しかし,実験結果の得られた時期が遅く,ブリッジマン炉の設計および納期が年度内に完了できないことが判明したため,学内の予算使用ルールに従い,次の年度にブリッジマン炉を製作することになった.このため,翌年度分として請求した助成金と合わせ,設備を導入することになった.
|