研究課題/領域番号 |
18K04737
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
吉原 直記 福岡大学, 工学部, 助教 (90708869)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電極材料 / 二酸化炭素 / 金属積層 / 電気化学還元 / 表面 |
研究実績の概要 |
二酸化炭素の電気化学還元反応では、電極となる金属種の違いにより生成物選択性が決定することが報告されており、二酸化炭素から既報にない生成物をこの反応により生成することはできないとされていた。本研究では、反応物である二酸化炭素と電極金属種との吸着力が生成物選択性の因子なるということに着目し、既存の金属電極表面に異種金属の原子膜を堆積させた金属原子膜積層電極を開発し、この電極上にて新たな二酸化炭素転換メカニズムを発現させることを目的として研究を行っている。 前年度の研究で、結晶構造の異なる銅単結晶電極に特定の厚さのニッケルを堆積させた積層電極上での二酸化炭素の電気化学還元反応において、二酸化炭素の転化率が大きく向上することを見出した。しかし、下地の銅単結晶が特定の結晶構造(Cu(110))を有していないとその転化率は逆に低下することも分かってきた。そこで、令和元年度はニッケル電着条件について系統的に検討した。その結果、特定の銅単結晶にニッケルを電着した際に銅の表面構造が変異することを確認し、二酸化炭素の転化率は積層電極の積層構造に敏感であることを明らかにすることができた。 さらに、炭素の高い気体吸着機能に着目し、活性炭上に銅を堆積させた電極の作製を試みた。銅の電着条件を精緻に調整することで微細なフレーク状の金属銅を活性炭上に堆積させることに成功した。この電極上での二酸化炭素の還元反応では、気体生成物でなく主にギ酸やエタノールといった液体生成物が生成されることを確認した。これら結果は、積層電極表面での二酸化炭素の吸着力がバルク銅電極と異なることで、その還元メカニズムが変異することを支持した成果だといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銅と異種金属の原子層を積層させるという着想のもと、独自の電着手法を用いて数種類の積層電極を作製し、その表面においてそれぞれ異なる二酸化炭素の還元メカニズムを発現させることに成功した。実際に、金属種の選定、異種金属の堆積量、および下地金属電極の表面結晶構造が二酸化炭素の転化率および生成物選択性に大きく起因しているという結果から、二酸化炭素の新たな還元メカニズムを発現する積層電極構造も明らかにしつつあり、着実に研究は進んでいる。また積層電極の開発検討に加え、金属の電着条件により下地電極表面の構造変異も見出しており、それらが転化率向上に影響していることも明らかにすることができた。これらの理由から、本研究は概ね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当研究で作製した銅と異種金属との積層電極は、その構造によりそれぞれ異なる二酸化炭素の還元メカニズムが発現することが確認されたが、さらに構造制御していく必要があると考えており、令和元年度に実施した積層電極作製にかかる電着条件の様々なファクターを制御し、既報にない新たな二酸化炭素の還元メカニズムを発現できるよう精緻に調整していく計画である。さらに昨年度確認した電着処理時の下地電極の構造変異について、下地電極の表面構造および金属積層の形成過程を評価することで、積層電極の構造制御を確立させる。上記に加え、積層電極上での二酸化炭素の吸着力に関する共同研究を進め、二酸化炭素の電気化学還元メカニズムと吸着力との因果関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は、作製した積層電極の構造の違いによって二酸化炭素の還元メカニズムの変異を見出すという当初の研究計画通りに研究を進めることができたため、昨年度に発生した繰越金を全て支出するまでには至らなかった。この繰越金については、令和二年度の原子膜積層電極作製にかかる試薬や積層構造の形成に必要な加熱処理時の雰囲気ガスボンベ等の費用に充てる。
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