研究実績の概要 |
WC-Co超硬合金はWCをCoで結合した複合材料である。この材料中のCoは室温で準安定相であるfccを示す。しかし、外部応力により安定相であるhcpに応力誘起マルテンサイト(SIM)変態する。この際、30%を超える剪断ひずみを伴うことになる。このようなSIMが超硬合金の強度、靭性の一翼を担っていると考えられている。しかし、この様なSIMを発生させるには数GPaの応力が必要であるため、SIMが効率的に発生していない。そこで、SIMの発生応力を変化させることができるFe-Ni系合金をCoに代わり用いることとした。 WC-20mass%(Fe(100-x)Nix), x=10, 20, 30(xは原子量比)を粉末冶金法で作製した。WC, Fe, NiおよびC粉末を秤量後、エタノール中で湿式混合したのち、大気中で乾燥させた。得られた混合粉末を圧粉成形し、1400℃で30分の焼結後、急冷し試料を作製した。この試料のTRSはそれぞれ、4GPa (x=10), 3.5GPa (20), 3GPa (30) を示した。また、変形中に発生するSIMの量は高強度を示す合金ほど多いことがわかった。その際の靭性値をIF法で見積もったところ、x=10の合金では17~20MPa・m^0.5程度と同程度の強度を示す超硬合金に比べて大きい傾向があることが分かった。また、他の合金(x=20および30)の場合、靭性値が大きすぎIF法では測定できなかった。 WCに代えてTiCを用いたサーメットTiC-33vol%(Fe(100-x)-Nix)の試作も行った。併せて比較のためSIMを示さないTiC-33vol%Feも作製した。両者の強度は約1GPaであり。従来のサーメットと同様、超硬合金に比べて低くかった。また、結合相の違いによるTRSへの影響も小さかった。しかし、Fe-Ni合金を結合相に用いたサーメットはFeを用いたものよりも靭性が大幅に改善されており、その際の試料破面のXRD結果より、Fe-Ni合金がSIMを示していることが分かった。
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