2020年度は、電子構造・フォノン構造を目的とした空孔サイトにおける原子欠陥を制御したハーフホイスラー化合物について、空孔サイト周辺の構造歪を観測するための評価技術を確立するとともに、新たな電子構造・フォノン構造の制御を目的としたTaSb2化合物の合成を試みた。以下に代表的な研究成果について記述する。 (1)空孔サイトにおける原子欠陥による構造歪の評価技術の確立 ハーフホイスラー化合物は、構造中に空孔サイトが存在するが、焼結法により作製した試料においてはこの空孔サイトに侵入型の原子欠陥として構成元素の一部が侵入することがこれまでの研究で判明している。そこで、元素選択的に原子周辺の局所的な構造を敏感に検出することが可能なX線吸収微細構造法を用いて調査した。その結果、第一原理計算で予測されるような原子欠陥周辺の原子が歪んでいることを実験的な面からも明らかにした。 (2)新たな電子構造・フォノン構造の制御を目的としたTaSb2化合物の合成と熱電特性評価 TaSb2化合物は第一原理計算とボルツマン輸送方程式を組み合わせた熱電特性予測より、高いゼーベック係数が期待されるとともに、複雑な結晶構造による低い熱伝導率の実現が期待される。しかしながら、これまでに熱電特性評価のための大型の試料の合成例は報告されていない。そこで、固相反応法により大型のTaSb2多結晶試料の合成を試みた。その結果、固相反応温度および時間を適切に設定することにより、熱電特性評価が可能な大型の試料の合成に成功し、光電子分光測定により、TaSb2化合物はバンド計算で予測される擬ギャップ的な半金属電子構造を有していることを明らかにした。
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