研究実績の概要 |
最終年度においては,これまでに整備した熱力学データベースに基づき, Fe-TM-B-C系(TM: Ti,V,Nb,Mo)のオーステナイト相における粒界偏析挙動の評価をHillertの平行接線則を適用して実施した.その結果,CとTMとの共偏析傾向は各合金元素の炭化物形成傾向と符合することが見出され,BとTMとの共偏析傾向の場合と同様であることが明らかになった.また,BとCの粒界偏析傾向を比較すると,Cに比べてBの方が偏析傾向は大きく,これは炭化物に比べてホウ化物の方が熱力学的安定性は大きいためであると考えられた.さらに,フェライト相についてB,CおよびNの粒界偏析挙動を評価した結果,オーステナイト相の場合と同様にB,CあるいはNとTMとの共偏析傾向は各合金元素のホウ化物,炭化物あるいは窒化物の形成傾向と符合することが確認できた.なお,フェライト相におけるB,CおよびNの粒界偏析傾向はB>C>Nの順となっており,これは,ホウ化物,炭化物,窒化物の熱力学的安定性の大小を反映していると考えられた. 研究期間全体においては,Fe-TM-B-C系に現れる液相,固溶体相(bcc相とfcc相)および(Fe,TM)23(C,B)6を主としたホウ炭化物から構成される熱力学データベースのプロトタイプを整備した.Fe-TM-B-C系におけるオーステナイト相およびフェライト相における粒界偏析について,BとTMあるいはCとTMとの共偏析傾向や,BとCとの粒界偏析傾向については,各合金元素のホウ化物および炭化物の熱力学的安定性の大小から理解できることが明らかになった.Davies-Uhlmannの速度論的取扱いによる粒界析出挙動の評価の結果,合金元素の種類や添加量によってM23(B,C)6やFe-TM-B三元ホウ化物の析出ノーズの位置が様々に変化し,焼入れ性に影響を及ぼすことが示唆された.
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