研究課題/領域番号 |
18K04755
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 真由美 富山県立大学, 工学部, 教授 (20292245)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クリープ変形 / マグネシウム / 転位下部組織 / 階段状c転位 / 非底面すべり / 林転位強化 |
研究実績の概要 |
本研究課題は希薄マグネシウム-イットリウム(Mg-Y)基固溶体合金においてクリープ変形時に導入される特異な階段形状を持つc転位の導入起源の解明と,これら階段状c転位を用いた強化法の有効性について検討することを目的としている. 前年度までに,室温下での予変形で導入した階段状のc転位の高温下での熱的安定性も踏まえた高温クリープ強度への寄与を検討したところ,室温で導入された階段状のc転位が安定に存在する温度においても,クリープ強度改善効果は初期のみで,長時間クリープ強度が低下することがわかった.そのため,TEM組織から階段状c転位による林転位強化能(林転位応力)の見積を行った.更にクリープ試験後の組織より応力負荷時におけるc転位の熱的安定性についても評価を行った.その結果,室温予変形後ならびに熱処理後の組織から求められた林転位応力はクリープ負荷応力よりもやや高く,強化への寄与が期待されることがわかった. 一方で,クリープ中に階段状c転位密度は大幅に低下していることがわかった.また,双晶界面や粒界近傍では階段状c転位が僅かに認められたが,これらの転位は予変形時に導入された階段状c転位ではなく,クリープ変形中に導入されたものであると考えられる.粒界および双晶界面近傍ではこれまでもa+c転位の活性化が報告されており,c転位がすべり運動のみで階段状に導入されることは考えにくいため,階段状c転位は一旦a+c転位が導入され,その後a転位とc転位に分解することで導入されると考えられる.また,同じ理由で階段状c転位が上昇運動およびすべり運動のみで回復することは困難である.そのため,階段状c転位はクリープ中に底面および非底面を活動したa転位と再結合し,非底面すべりを活性化することで回復したものと考えられる.また,これらの二次すべり系の活性化により,クリープ強度の低下が引き起こされたものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成元年度当初計画では,実験的に強度低下が確認された450K以下のクリープ試験や合金組成を変更し,より高濃度のYを含む合金で林転位強化に軸を置いた検討を計画していた.しかしながらこの条件でのクリープでは微細な準安定相の析出が避けられず,林転位そのものの強化への寄与を検討することが困難であることを実験的に確認したこと,また,新型コロナ感染症対策やクリープ試験機用電気炉の故障といった装置トラブルのため長時間の実験が困難であったこと,強度低下の要因を明らかにすることを優先すべきと判断し,組織解析中心の検討を行った. その結果,本研究課題の目的の一つである階段状c転位の導入起源を明らかにすることができた.また,階段状c転位と可動a転位の再結合による非底面すべりの再活性化の可能性を見出すことができた.この結果は研究開始時には予想していなかったものであるが,この現象を活用することで,マグネシウム合金の加工性の改善に展開できる可能性がある.従って,当初の予定とは異なる方向性ではあるが,Mg-Y合金系の特異な活動すべり系を利用した加工技術の発展や応用拡大,研究の深化を期待し,判断を(2)とした.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度~令和2年度の検討の結果,階段状c転位は非底面すべりの活動に伴うa+c転位の導入とその後のa,およびc転位の分解によって導入されること,クリープ条件下での強度劣化は,階段状c転位とa転位の再結合と非底面すべりの活性化によって生じる可能性が示唆された. このことより,階段状c転位を単独で安定的させ,高温クリープ強化に利用することは本質的に困難であることが予想される.しかしながら,c転位とa転位の再結合による非底面すべりの活性化が生じることは,本来その温度下では活動が難しいすべり系を,複数の転位を予め異なる温度で別々に導入させることで活性化できる可能性がある. このことから,令和3年度では階段状c転位とa転位の再結合と二次すべり系の再活性化の可能性に注目した検討を行う.具体的には室温で階段状c転位を導入したのち,通常の変形ではa+c転位が活動しづらい温度・応力条件でクリープ試験,場合によっては定速試験を行い,その強度や破壊ひずみ,二次すべり系の活性化について検討する. なお,本検討の成果が思わしくない場合は,準安定相の動的析出の影響を踏まえつつ高Y濃度を含む過飽和固溶体を用いた検討を行う.高Y濃度のMg-Y二元合金では高温変形中に非底面上に直線状のa転位が高密度で導入されることが応募者の過去の研究で確認されている.これらの転位はクリープ中に転位上に動的に析出した準安定相によってピン止めされるため,林転位強化についての検討が可能であると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の実験は組織解析を中心に行ったが,新型コロナ感染症拡大防止対策のため,学外での活動が制限されている時期が長く,学内および研究室内の装置を用いて組織解析試料の作製,観察および解析を行った.しかしながら効率的な試料の作製や解析には,富山県産業技術開発センター装置の利用が必須であるため,令和3年度は同センターとの連携を十分に行い,確実にマシンタイムを確保する目途がついている. また,年度途中にクリープ試験機の電気炉が故障し,長期間の高温クリープ試験の実施が困難となった.これは令和元年度の実績報告にて報告していた不具合とは別の故障である.そのため,当初予定していた経年劣化による装置整備計画を大幅に変更した.なお,故障した電気炉の対応は令和2年度内に概ね完了しており,当初予定の装置整備も合わせ,6月下旬には実験開始が可能となる予定である.次年度使用額のうち,富山県産業技術開発センター装置利用分を約450,000円,クリープ試験装置の改良,改善対策に約300,000円,消耗品に約300,000円を計上予定である.
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