研究実績の概要 |
本年度は、鉄酸化物の特異構造の形成と添加元素の関係について検討を行った。すなわち、添加元素としてGe, Mo, WおよびMgを用いた。薄膜の作製はRFスパッタリング法を用い、ターゲットとしてFe3O4円盤上に各元素チップを設置し、成膜雰囲気としてArを用い、水冷ガラス基板上に成膜した。次いで、673Kで大気中熱処理を行った。その結果、無添加のFe3O4では熱処理時間の経過と共に磁化が単調に減少し、約1日の熱処理で磁化をほぼ消失する。これは、出発試料のFe3O4が大気中の熱酸化でα-Fe2O3に相変化するためである。Mg、W, MoおよびGeの順に磁化が保持される傾向を示し、見積もられた活性化エネルギーはGeにおいて最も大きく、490kj/molであった。この値は、無添加のFe3O4薄膜と比較して約2.5倍の大きさであり、Ge添加において最も耐酸化性に優れることが明らかになった。また、透過型電子顕微鏡を用いた薄膜の断面観察では、ナノスケールの凹凸構造が薄膜表面に自己成長することが示唆された。組成マッピングでは、FeとOが薄膜全体に分布するのに対し、Geは表面の凹凸構造にほぼ存在しない。すなわち、薄膜は、凹凸構造を有するα-Fe2O3層とGeを含むFe3O4層とのヘテロ構造を自己形成する。他方、大気中で熱処理したMo, WおよびMg添加試料の断面観察像では、Ge添加試料と同様に凹凸構造を有するα-Fe2O3層を表面に形成し、各添加元素はほぼ存在しない。また、添加元素が存在する領域ではγ-Fe2O3が形成される。これらの結果から、添加したすべての元素においてヘテロ構造を形成するが、Ge添加においてのみ、出発試料であるFe3O4層が保持されることから、最適な添加元素はGeであると考えられる。
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