本年度は、特異構造を有する鉄酸化物の光触媒機能について検討を行った。試料として、Geを2.5at.%添加したFe3O4薄膜を作製し、次いで、500℃に保持した電気炉で大気中熱処理を行った。この際、薄膜は、高周波スパッタリング法により、水冷されたガラス基板上に成膜された。また、成膜雰囲気としてArを用い、ターゲットとしてFe3O4円盤上にGeチップ(5mm□)を配置した複合ターゲットを用いた。一般に、無添加Fe3O4薄膜の磁化は当該熱処理により消失し、α-Fe2O3に相転移するのに対し、Geを添加したFe3O4薄膜では、熱処理後も約4kGの磁化を保持し、耐酸化性を発現する。この副産物として、α-Fe2O3とGeを含むFe3O4とのヘテロ構造を形成する。次に、当該試料を用いて光触媒機能の検討を行った。試料をCaF2の窓材を有する専用のガラス容器に挿入し、真空排気した後、酸素ガスで置換し、所定濃度のホルムアルデヒドガスを充填した。この際、ホルムアルデヒドガス源としてパラホルムアルデヒド固体試料を用い、約85℃に加熱することにより発生するガスを用いた。専用容器への当該ガスの充填方法として、フーリエ変換赤外吸収分光装置を用い、波数2800cm-1付近に存在するホルムアルデヒドの吸収スペクトル強度をモニタリングしつつ、所定の値に達するまで充填した。また、光源として白色LED照明を用い、光源強度を20000lxとした。その結果、赤外吸収スペクトルの強度は、照射時間の経過と共に単調に減少する傾向を示す。白色LED光は、ほぼ紫外線フリーの光源であることから、当該材料は、可視光応答型光触媒としての機能を発現することが明らかになった。当該構造は、表面にナノスケールの凹凸を有することから、表面積が増加し、光触媒反応の促進に寄与すると考えられる。
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