研究課題/領域番号 |
18K04763
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
境 昌宏 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20301963)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腐食 / 銅 / 有機酸 / ギ酸銅 / リン |
研究実績の概要 |
蟻の巣状腐食メカニズム解明のための電気化学測定を実施するために,溶液中での銅管の蟻の巣状腐食再現試験を試みた。申請者らが従来から用いていたギ酸や酢酸溶液に加え,ギ酸銅および酢酸銅溶液中での銅管の浸漬試験を実施した。ギ酸銅や酢酸銅のような有機カルボン酸銅を用いることにより,カルボン酸イオンおよび銅イオンが多量に存在する溶液を試験液とすることができる。蟻の巣状腐食の食孔内部はカルボン酸および溶出した銅イオンとが狭い空間に共存する環境になっているものと思われ,ギ酸銅や酢酸銅溶液を用いた場合は,食孔内部環境が模擬できているものと思われる。 ギ酸銅および酢酸銅溶液中に最長84日間銅管を浸漬したところ,蟻の巣状腐食が発生し,その進展速度は従来のギ酸,酢酸溶液を用いた場合に比べて明らかに速くなった。ギ酸銅,酢酸銅溶液を用いた場合の腐食形態はそれぞれ異なり,ギ酸銅溶液中で発生した食孔は,ランダムに枝分かれした微細孔が深さ方向に進展する典型的な蟻の巣状腐食に対し,酢酸銅溶液中で発生した食孔は枝分かれの少ない単一孔であった。 上述したギ酸銅溶液中に,リンを含まない無酸素銅管,リン含有量約0.02%の通常のリン脱酸銅管,通常のリン脱酸銅管よりもリン含有量が0.2~0.3%と一桁多い銅管を浸漬したところ,リン含有量が0.2~0.3%銅管には蟻の巣状ではなく,半球状食孔が発生した。 以上より,蟻の巣状腐食は銅イオンが共存した有機酸溶液中で比較的早く発生すること,また有機酸の種類や銅中に含まれる元素の種類,量でその形態が変化することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銅管の蟻の巣状腐食をギ酸銅溶液中で再現する方法を確立した。ギ酸銅溶液を用いることにより,環境側要因である溶液のpH,電気伝導度,溶液中に溶出する銅イオンを測定することができた。ギ酸銅溶液を用いた場合は,ギ酸溶液に比べて銅管の表面が速やかに酸化皮膜で覆われ,それに伴い溶液のpHも1以上低下した。その後酸化皮膜がさらに生成していくにつれて,溶液のpHは漸増し,最終的には初期pHまで回復した。溶液のpH変化から,浸漬初期の段階では,溶液中に存在する多量の銅イオンが酸化剤として働き,銅管表面の酸化を促進することで酸化皮膜の形成が速やかに行われるものと思われる。これまでの研究から,この酸化皮膜の形成が蟻の巣状腐食発生に不可欠であることが分かっており,その酸化皮膜形成を速やかに行う溶液としてギ酸銅溶液を見いだすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ギ酸銅溶液中で蟻の巣状腐食が比較的早く発生することが判明したため,今後はこのギ酸銅溶液を主に用いて電気化学測定を行う。基本的な腐食挙動を把握するために,ギ酸銅溶液中でのアノードおよびカソード分極曲線の測定を行う。自然浸漬中に腐食が発生・進行しているあいだの腐食電位測定を行い,電位の経時変化と腐食挙動との関連性を調べる。さらに,蟻の巣状腐食を電気化学的試験により再現するために,ある一定の電位を印加し続ける定電位保持試験を,溶液濃度や印加電位をパラメータとして試行錯誤的に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に導入予定の恒温恒湿槽は,今年度の実験内容においては,既存のインキュベーターにて代替使用が出来たため。次年度は,温度制御オプションを追加した電気化学測定システム導入のために使用する。
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