ギ酸や酢酸などの有機酸環境中に銅がさらされると,蟻の巣状腐食と呼ばれる特異な局部腐食を生じる場合がある。蟻の巣状腐食はその名の通り,微細孔がランダムに枝分かれしながら深さ方向に進む腐食のことで,その具体的な発生・進展のメカニズムについてはまだ明らかにされていない。 従来,蟻の巣状腐食はギ酸や酢酸などの有機酸を含む湿った気相中でしか生じないといわれてきた。研究者はギ酸や酢酸などの有機酸溶液中に銅を浸漬することでも蟻の巣状腐食が発生することを明らかにした。すなわち,液相中においても気相中と同様の腐食形態を再現することに成功した。これにより,分極曲線などの電気化学測定を行うことが容易になった。さらに試験液として,銅イオンを含むギ酸銅溶液,あるいは酢酸銅溶液を用いると液相中での腐食発生が,ギ酸,酢酸溶液を用いたときよりも格段に加速されることも明らかにした。 電気化学測定が可能となったことから,銅を試験液に浸漬し,ポテンシオスタットを用いて,電位を印加する定電位保持試験を実施した。定電位保持試験を用いることにより,従来の自然浸漬試験では再現に1ヶ月ほど要していたのが,わずか1日で蟻の巣状腐食の萌芽を再現することができるようになった。 定電位保持試験時の印加電位,保持時間,溶液濃度といったパラメータを変化させ,試験を行うことで蟻の巣状腐食が抑制あるいは加速される条件について調査した。その結果,印加電位を低下させることで腐食が抑制され,保持時間を延ばすことで腐食が加速されることが明らかとなった。
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