研究課題/領域番号 |
18K04764
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
佐伯 功 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (50235090)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 泳動電着 / 電気めっき / 機能材料膜 |
研究実績の概要 |
(1)泳動電着メカニズムおよび泳動電着膜の多孔性を決定する因子の解明(継続) 従前の検討により,泳動電着質量増加に影響する因子は電圧,時間,粉体濃度が主で,温度,ヨウ素濃度,水濃度はわずかに影響することがわかっている。多変量解析によってそれぞれの因子の影響の程度は解析できたが,電着質量増加にはプラスマイナス100%以上のバラツキがあり,工業的に膜を作成するためには不十分であった。そこで2019年度は自動電着・めっきロボットを自作し,より多くのデータが採取できるように改善した。その結果,多くの実験を行うことができたが,データの再現性は以前以上に悪くなった。加えて,ビーカーレベルの実験では1回毎に浴を更新していたために,浴の寿命は不明であったが,自動ロボットでは同じ浴を繰り返し利用した。その結果,電着質量増加は電着の繰り返しで減少し,長時間の放置で回復することが明らかとなった。 (2)泳動電着と電気めっきを組み合わせた機能性膜の作成 通常の電気めっきでは被めっき材は平滑であり,めっき面の溶液側は撹拌が良好であるのに対して,本研究で扱うのは多孔質粉体と被めっき金属の界面でのでん席であり,そこでは溶液の撹拌は行われない。この2つの状況の違いを明らかにするため,0-50ミクロンのSiC粉体を電着によりコーティングした銅板に十分に高い濃度のNi, Zn, Cuめっき浴を用いてめっき実験を行った。その結果,SiC膜の厚さの増加とともに直線的にめっき電流効率が減少し,水素発生が起こることを確認した。また,電流密度の増加とともに同じく電流効率は減少した。この実験結果から,予想どおり多孔質粉体内部では撹拌効果はなく,めっきによって緻密な機能性膜を作成するためには見かけの電流密度を下げてめっきを行うこと,めっき溶液中のめっき金属濃度は可能な限り高くする必要があることを明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の見込み以上に泳動電着のスケールアップが難しいことが明らかとなり,また,泳動電着に用いてきたメチルエチルケトンベースの浴は使用とともに変性し電着速度が著しく変化することがわかった。この結果から,この浴を今後の検討の基本浴とすることは不可能であると判断し,新たな泳動電着浴の探索をする必要性が生じた。 これが原因となって,全体の検討の進捗がやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(2)新規な泳動電着プロセスの開発 用いてきたメチルエチルケトンーヨウ素泳動電着浴は電着によって変性し,回復には時間がかかることがわかった。これらの結果に基づき,この電着浴をベースとした検討は保留して新たな溶液の探索を行うことが必要と判断した。本年度はめっき,熱処理の後工程の検討は保留し,泳動電着浴の探索に集中する必要がある。 2019年度にはこの検討を開始したが,時間的には十分ではなく,机上の検討で終わっている。しかし,基本方針としては,危険で有害な有機溶媒を用いない泳動電着に関する報告は複数見出すことができたので,次年度以後はそれらを追跡し,新しい基本浴の開発を継続したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の概要で記述したように,この研究の初期段階にあたる部分の要素技術における問題を克服することができず,計画をを大きく方向転換する必要が生じた。このため,研究のスピードがさがり,成果発表等につながる結果を得ることができなかった。よって使用額が当初の計画を下回った。 次年度は検討の内容を見直し,遅れの回復を目指す。
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