研究課題/領域番号 |
18K04771
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関谷 隆夫 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (60211322)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遷移金属酸窒化物 / 微粒子電極触媒 / スパッタリング |
研究実績の概要 |
固体高分子型燃料電池(PEFC)に使われるPt電極触媒の代替として、遷移金属酸窒化物触媒の開発が望まれている。実用的なMEA(電極触媒層と固体電解質材料の膜を複合化した発電ユニット:Membrane Electrode Assembly)の利用に向けた代替のためには、炭素微粒子への担持が必須である。本研究では、微粒子表面上に均一に成膜するため、現有の中空円筒型ターゲットを備えた特殊な直流マグネトロンスパッタリング装置に、炭素微粒子を高温に保ちながら、円筒直下のプラズマ空間に微粒子を振動させる加熱・振動ユニットを加えた装置を開発することが最重要の課題である。微粒子表面への成膜として溶液中や大気中で試料を塗布するいわゆるウェットプロセスによる方法よりも、真空中での直接スパッタリングするドライプロセスによる製膜が工業的には最適の方法と考えており、また、円筒型ターゲットを用いる事で粒子に対して様々な方位からの成膜が可能であることを考慮し、スパッタリング製膜中に遷移金属酸窒化物を担持させる微粒子を振動させることで、微粒子の全表面に製膜する事が可能になる。このため、炭素微粒子を振動させるための様々な装置を試作した。同時に、微粒子表面に析出させる結晶相を決定するためにも、微粒子加熱の方法を探索することも重要であり、様々な素材の金属製ボートによる加熱を検討した。現在までに、振動装置と加熱機構の目処が立ったので、それらを組み合わせて直流マグネトロンスパッタリング装置に組み込む。今後、様々な条件で遷移金属酸窒化物を担持した炭素微粒子触媒で作成し、その物性評価を行なう。必要に応じて、評価物性を遷移金属酸窒化物担持炭素微粒子粉末試料の作成にフィードバックする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体高分子型燃料電池(PEFC)に使われるPt電極触媒の代替として、炭素微粒子表面に遷移金属窒化物をコーティングした粉末触媒の開発を意図して、微粒子表面上に均一に成膜するため、現有の中空円筒型ターゲットを備えた特殊な直流マグネトロンスパッタリング装置に、炭素微粒子を高温に保ちながら、円筒内のプラズマ空間に微粒子を導くハンドリングシステムを加えた装置を開発する。現在まで主として、微粒子に振動を加える装置の開発を手がけて来た。炭素微粒子を振動させることでスパッタ装置内のプラズマの及ぶ範囲外へ飛び出さぬように、金属製の皿状のセルを用いた。皿状セルにピエゾ素子を組み合わせたものの、皿状セルの振幅は小さく、セル内の微粒子の振動も小さく有効ではないことが判った。また、小型振動モータを利用する事で皿状セルに載せた炭素微粒子は大きく振動したが、スパッタリングの影響を受けて、振動モータがスパッタ時間中に故障・停止する事態となり、振動装置への利用は適さないことが判った。そこで、コイルと磁石を用いた振動装置を開発し、炭素微粒子を大きく振動させる事に成功した。 遷移金属酸化物を炭素基板上に製膜する際に、炭素基板を加熱する事で形成される結晶相が異なることが確認できている。そこで、上記の振動装置と干渉の少ない炭素微粒子への加熱装置を並行して作製して来た。セラミックヒータなど小型で1000℃程度までの高温を付加する素子を様々検討し、インコネル製ボートへの直接交流通電による加熱が良いと判断した。上記振動装置と組み合わせ、炭素微粒子粉末へのスパッタリングを施す装置体制が整った状況であり、既存の真空装置への組付けを計画している。今後、得られる遷移金属酸窒化物担持炭素微粒子粉末試料についてのキャラクタリゼーションを行ない、製膜条件、スパッタ条件の最適化を行い、触媒性能評価を行なう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
この研究に用いるマグネトロンスパッタリング装置は円筒型ターゲットを有するため、ターゲット直下に配置した炭素微粒子粉末に、多方向から製膜できる事が期待できる。炭素微粒子を振動させることで、粒子の全方位からの製膜が可能と考えており、試料作成が可能となれば、直ちにその点を透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)等を用いて確認したい。その後は、基板温度、スパッタリング条件を変えながら試料作成を行ない、析出する結晶相をX線回折(XRD)やラマンスペクトル等から測定する。また、析出相の光電子分光(XPS)測定を通じて、原子価、試料組成などの評価を行なう。これらの測定結果を微粒子粉末の作成条件にフィードバックすることで、炭素基板を用いたドライプロセス、或いは、微粒子上にウェットプロセスで作製した触媒等の多くの報告例から選んだ、目的組成の目的相を作製する予定である。最終的には、得られた 遷移金属酸窒化物担持炭素微粒子粉末の触媒性能は、電極反応として評価するため、ナフィオン中に微粒子を分散させた溶液を炭素基板上にスピンコート法により塗布し薄膜化し、電気化学測定(SSV測定)を行なう予定である。 この微粒子製造方法とは別に、製膜後に高温加熱する装置を作製する。スパッタ装置に組み込む加熱・振動ユニットの限界を越えて加熱する事で、新たな結晶を得る事が期待でき、触媒性能が大きく変化することも期待できる。この方法で作製した遷移金属酸窒化物担持炭素微粒子についても、上記キャラクタリゼーションを行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
マグネトロンスパッタリング装置に組み込む加熱・振動ユニットのヒーターの材質を検討することで、低容量の電源で目標温度が達成できる見込みが得られ、当初に購入予定の電源よりも支出を抑える事ができたため、次年度使用額が生じた。これについては、30年度、真空排気系に使用しているターボポンプの補助に用いているロータリーポンプが老朽化による不具合が生じているので、31年度に代替のため新規に購入する費用に充当する。
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