本研究の目的は、塑性加工の現場で一般的に使われている工具、被加工材および潤滑条件を用いて、潤滑油を用いた場合の摩擦法則の定式化と潤滑機構の解明である。 2018年度の研究によって、潤滑油を用いた場合の摩擦法則は、「摩擦係数一定に始まり、平均面圧の増加に伴い、摩擦係数が減少し、高面圧域では再び一定になる」という特徴をもつことを明らかにした。 しかし、塑性加工において、被加工材表面が金型との接触滑りにおいて、接触圧力は常に変化する。また、被加工材表面も多工程の加工履歴・摩擦履歴を受けてその性状は大きく変化するため、摩擦履歴が摩擦法則にどのような影響を与えるかは重要なテーマである。2019年度の実験において、接触圧力を増加、減少などの多数の変化パターンで変化させ、摩擦試験した結果、上記の摩擦法則は被加工材の摩擦履歴の影響をほとんど受けないことを明らかにした。 2020年度では、摩擦法則に及ぼす被加工材の材質および予ひずみの影響を調べた。被加工材としてはSPCC材とDP鋼を用いた。予ひずみは引張試験によって最大0.2まで付与した。摩擦試験の結果、摩擦法則は被加工材の材質及び予ひずみの影響を受けないことを明らかにした。すなわち、予ひずみをaとし、摩擦応力/被加工材のせん断抵抗k(a+0.08)を縦軸とし、平均面圧/被加工材の変形抵抗Y(a+0.08)を横軸としてすべての実験データを同一図上にプロットした場合、被加工材の材質及び予ひずみを変更してもすべてのデータが一本の曲線に載ることを判明した。 本研究で明らかにした摩擦法則を数値シミュレーション解析コードDEFORMに導入し、塑性加工法の研究に広く活用できるようにした。
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