研究課題/領域番号 |
18K04786
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
片平 和俊 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (70332252)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / ダイヤモンド工具 / 微細加工 / フェムト秒レーザ |
研究実績の概要 |
大気圧プラズマジェットを援用することで,加工中のクーラント効果を促進させ,微細ダイヤモンド工具の加工性能を最大限に引き出す手法の開発を行っている.とくに,プラズマ化された活性種と,加工フロントにおける被加工物/工具/チップとの化学反応を精緻に制御するとともに,加工面/工具面の詳細な化学分析を通じて,プラズマの機能発現メカニズムを解明することを目的とする.今年度は,ナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)エンドミルによる高純度SiC加工におけるプラズマ援用クーラントの適用を実行した.プラズマ援用クーラント専用装置を作製し,窒素ガスベースのプラズマジェットを加工点に対しピンポイントで照射することで,クーラント効果の促進を狙った.プラズマ援用の有無によるSiC加工後の表面粗さを比較したところ,プラズマ援用なしで加工した面粗さは430 nmRzであったが,プラズマ援用ありで加工した面粗さは29 nmRzであった.プラズマ援用によって,脆性破壊(チッピング)を大幅に抑制できることを確認している.また,加工後のNPD工具表面を観察したところ,プラズマ援用することにより,付着物(Siの酸化物)の抑止に甚大な効果があるという基礎的知見が得られた.本手法の確立および更なる効果発現のためには,加工のフロント(工具と被加工物のナノ領域接触点)において,プラズマガスがどのように工具の切れ味を維持しているのか,その機能発現メカニズムを解明することがカギであるという認識のもと,今後も鋭意研究を継続する.さらに,プラズマ援用技術の新たな展開として,大気圧低温プラズマ援用レーザ表面改質処理の実現可能性について探るため,専用ノズルを設計・試作し,ダイヤモンドをターゲットとして基礎実験を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の取り組みで,ナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)エンドミルによる高純度SiC加工におけるプラズマ援用クーラントの有効性を確認することができた.独自に設計製作した長尺300mmの誘電体バリア放電方式のプラズマ発生装置により高品位なプラズマを長時間安定して照射可能となったことが本年度の目標達成のカギとなった.また,レーザプラズマ加速器のキーパーツとなるレーザガイド(サファイア製キャピラリ)のNPD工具による超精密加工に対し,プラズマ援用クーラントの適用を試みた.実験に使用する超精密5軸加工システムのパフォーマンスを最大限に活用するため,各軸のレーザスケール・切削抵抗検知微小動力計・加工点高倍率モニタリングシステムの調整動作確認を慎重に実施した.実験を遂行する際,加工のフロントにおいて延性モード切削を発現させる要素と仕上げ加工面の挙動の関連を解析し,その結果から,サファイアキャピラリ加工を達成するための基礎となる加工条件の最適化および達成度レベルの検証を実施した.一方,プラズマ援用技術の応用展開として,大気圧低温プラズマ援用レーザ表面改質処理の実現可能性について探るため,フェムト秒レーザによるNPD工具成形時における高品位化も新たに取り組み始めた.大気圧プラズマジェットをNPD工具レーザ成形時の加工焦点にピンポイントで照射することで,プラズマによる酸化抑止効果のみならず,ダイヤモンドのアブレーション除去加工と同時にプラズマガス種(窒素など)の活性種による化学反応を促進させる.レーザをターゲットに照射する際に,照射部をプラズマ(グライディングアーク放電方式を採用)で覆うための専用ノズルの設計製作を実施し,基礎実験を開始した.
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今後の研究の推進方策 |
レーザプラズマ加速器のキーパーツとなるレーザガイド(サファイア製キャピラリ)のNPD工具による超精密加工に対し,プラズマ援用クーラントの適用を引き続き試みる.キャピラリが長尺になればなるほど得られる加速電子のエネルギは高くなるため,現状の90mmから今後は200mmと長さ倍以上の微細溝を長時間にわたり加工する必要がある.長時間に安定したプラズマを供給できる電源・専用ノズルの開発を行うとともに,加工中に広範な加工面を常にプラズマで覆い続ける必要があるため,工具の軌跡を先行して動くことができるようなノズルの保持・駆動機構(フレキシブルノズル)を開発する.本手法を実行させるための出口イメージは,“多彩で高機能なアシストシステムの統合化”である.次年度以降,これまで蓄積してきた一連のアシストシステム,すなわち,電解援用リコンディショニング,大気圧プラズマ援用クーラント,オンマシン超音波洗浄,加工状況モニタリング,マイクロ加工専用CAMなどを統合化できるプラットフォームを専用加工機上に組み上げる.本研究開発で運営していく過程でプロトタイプを構築し,最終的にはコンパクトな専用システムとして実用化を検討していく.一方,プラズマ援用技術の応用展開として,大気圧低温プラズマ援用レーザ表面改質処理の実現可能性について探るため,新たに専用装置を製作する.プラズマ発生方式としては,グライディングアーク放電に代わり,誘電体バリア放電方式を採用し,バリア放電中の石英管の内部をレーザ光が通過しターゲットに照射する仕組みとする.レーザヘッドとターゲットの間隔は10㎝であり,その経路にプラズマ発生ノズルを設置する必要があるため,極力コンパクトなノズルの設計・製作から開始する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新たに製作したレーザ・プラズマ複合ノズルおよびそのジグ・筐体の費用が当初の予定よりも減額できたことで使用額を次年度へ移行することとなった.繰越額は,次年度製作予定である誘電体バリア方式のプラズマヘッドの製作費に使用する.開発するプラズマヘッドは,バリア放電中の石英管の内部をレーザ光が通過しターゲットに照射する仕組みとする.レーザヘッドとターゲットの間隔は10㎝であり,その経路にプラズマ発生ノズルを設置する必要があるため,極力コンパクトなノズルの設計・製作から開始する予定である.
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