研究課題/領域番号 |
18K04786
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
片平 和俊 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (70332252)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 微細加工 / ダイヤモンド工具 / フェムト秒レーザ / 大気圧プラズマ |
研究実績の概要 |
微細ダイヤモンド工具の加工性能を最大限に引き出すために,大気圧プラズマジェットを援用することで,加工中のクーラント効果を促進させる手法の開発を行っている.本年度は,各種ダイヤモンド(単結晶:SCD,多結晶:PCD,ナノ多結晶:NPD)工具を用いて,超硬合金をミーリング加工する際の加工のフロントにおける,工具切れ刃の作用メカニズム,とくに工具摩耗の発生-進展挙動解析に注力した.基礎実験では,①SCD工具,②PCD工具,③NPD工具(レーザ仕上げのみ),④NPD工具(レーザ仕上げ後に研磨処理)の4種類のダイヤモンドエンドミルを用意し,超硬合金加工実験を実施し,切削距離500 mにおける各種ダイヤモンド工具の逃げ面摩耗の進行状態を確認した.SCD工具は摩耗の進行が早く,他のダイヤモンド工具に比べ摩耗が著しく大きく,切刃エッジ部にチッピングが認められた.PCD工具の摩耗の進行は,SCD工具に比べ緩やかではあるものの,SCD工具と同様に大きなチッピングが認められた.一方,NPD工具は,レーザ仕上げおよび研磨処理ともに,SCD工具やPCD工具に比べて摩耗の進行が緩やかであるとともに,チッピングは認められなかった.よって,NPD工具は,SCD,PCD工具と比較して,超硬合金のミーリング加工における耐久性が高いことを確認できた.一方,レーザ仕上げNPD工具は,切削距離500 mでは120 nmRa以上の値を示しが,研磨処理NPD工具では切削距離が500 mまで達しても15 nmRa程度の面粗さを維持していた.この両NPD工具間における加工特性の差異は,工具の仕上げ状態の違いによる影響であった.レーザ仕上げNPD工具の初期の逃げ面粗さは,研磨処理NPD工具のそれと比較すると7倍ほど大きいことから,摩耗の進行に伴う工具逃げ面および加工面粗さの劣化の要因となったものと確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,研究実績の概要に整理した通り,各種ダイヤモンド(単結晶:SCD,多結晶:PCD,ナノ多結晶:NPD)工具を用いて,超硬合金をミーリング加工する際の加工のフロント(工具と被加工物のナノ領域接触点)における,工具切れ刃の作用メカニズム,とくに工具摩耗の発生-進展挙動の解析に主体的に取り組んだ.とくに,両NPD工具間における加工特性の差異が,工具の仕上げ状態の違いによる影響であることを実験的に明らかにした点は有意義な成果といえる.工具の仕上げ状態の違いが加工特性(工具摩耗挙動および加工面品位など)に及ぼす影響を見極めるため,引き続き系統的な実験を行う.一方,超短パルス(フェムト秒)レーザを用いて微細ダイヤモンド工具そのものの高能率成形技術開発に取り組んだ.本年度は,フェムト秒レーザ(平均出力 10 W,パルスエネルギ20 μJ)を用いた工具成形プロセスの確立を目指した.総加工時間を1時間以内に抑え,工具を加工機上から取り外すことなくワンチャックで最終形状まで成形できることを確認している.一方,レーザプラズマを閉じ込めて粒子加速させる小型の装置が開発され脚光を浴びているが,同装置のキーパーツとなるレーザガイド(サファイア製キャピラリ)をいかに精度よく作製できるかがカギとなっている.本研究の新しい展開として,二つの要素技術〈フェムト秒レーザによる高能率・迅速プリフォーミング〉,〈微細多結晶ダイヤモンド(PCD)ミーリング加工による高品位・高精度仕上げ〉 をシームレスでリンクすることで,サファイア製キャピラリを創製するプロセスチェーン開発にも着手した.さらに,プラズマ援用技術の新たな展開として,大気圧低温プラズマ援用レーザ表面改質処理の実現可能性について探るため,専用ノズルを設計・試作し,ダイヤモンドをターゲットとして基礎実験を開始した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の新しい展開として,レーザプラズマ加速器のキーパーツとなるレーザガイド(サファイア製キャピラリ)を製作するため,二つの要素技術〈フェムト秒レーザによる高能率・迅速プリフォーミング〉,〈微細多結晶ダイヤモンド(PCD)ミーリング加工による高品位・高精度仕上げ〉 によるプロセスチェーン開発を実行する.ここで,PCD/NPD工具による超精密加工に対し,プラズマ援用クーラントの適用を引き続き試みる.とくに,サファイアの超精密ミーリングにおいて,被加工物/工具/チップとプラズマ活性種との化学反応を精緻に制御するとともに,加工面/工具面の詳細な化学分析を通じて,プラズマの機能発現メカニズムを解明することを目的とする.さらに,ダイヤモンド工具のレーザ成形プロセス開発において,将来の先進ダイヤモンド工具の更なるニーズ拡大を見据え,平均出力100 W(パルスエネルギ500 μJ)のフェムト秒レーザへと本プロセスを移行するためのシステム構築を実行する.一方,プラズマ援用技術の応用展開として,大気圧低温プラズマ援用レーザ表面改質処理の実現可能性について探るため,新たに専用装置を製作する.プラズマ発生方式としては,グライディングアーク放電に代わり,誘電体バリア放電方式を採用し,バリア放電中の石英管の内部をレーザ光が通過しターゲットに照射する仕組みとする.レーザヘッドとターゲットの間隔は10 cmであり,その経路にプラズマ発生ノズルを設置する必要があるため,極力コンパクトなノズルの設計・製作から開始する予定である.窒素ガスプラズマを用いた基礎実験結果より,チタン合金表面にナノスケールのテクスチャを形成(LIPPS構造)できている.今後は,得られた表面のトライボロジー特性や生体適合性評価を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
加工対象であるサファイア素材が想定よりも安価に入手できたことで使用額を次年度へ移行することとなった.繰越額は,次年度製作予定であるサファイアサンプルの保持治具の製作費に使用する.サファイアサンプルの長さは90mm~300mmを想定しているため,保持治具には数ミクロンレベルの平行度と進捗度が求められる.
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