2020年度は、AZ61マグネシウム合金高温圧延材の焼鈍材と時効材を対象として、温間引張試験と深絞り成形カップの組織観察を行った。 始めに、AZ61合金高温圧延材の350℃1時間の焼鈍材(未時効材)および175℃96時間と250℃24時間の時効材に対し、引張試験を行った。室温引張試験結果では、未時効材に比べ、175℃96時間の時効材は結晶粒内に高密度に分布するβ相(Mg17Al12相)の析出により、引張強度と耐力が20MPa近く上昇し、高強度を示した。また、100℃、175℃と225℃の温間引張試験の結果では、175℃96時間の時効材は未時効材に比べ、20MPa近くの高い耐力を維持した。一方、β相が主に結晶粒界に析出する250℃24時間の時効材は強度上昇が確認されなかった。室温では、175℃96時間の時効材は未時効材に比べ、破断伸びが低かったが、100℃では、同程度に向上した。これは局部伸びの向上によるものである。局部伸びの向上の原因はβ相の大量析出により、母相中のAl濃度が低下したためと推測される。局部伸びの向上により、175℃96時間の時効材は深絞り成形時の破壊箇所としての肩部の曲げ変形能が向上し、深絞り成形性の格段な向上に繋がった。 次に、深絞り成形カップに対してEBSD測定を行い、深絞り成形中の組織変化を調べた。100℃で成形したカップのエッジ部(未時効材の破断箇所)に対して測定した結果、175℃96時間の時効材は未時効材に比べ、集合組織の発達が遅れることがわかった。これは析出したβ相が集合組織発達を助長する引張双晶の形成を抑制したためと考えられる。 以上のように、未時効材と時効材の温間引張特性と深絞り成形中の組織変化を明らかにした。175℃96時間の時効材は局部伸びの向上と引張双晶形成の抑制により、100℃への僅かな温度上昇で格段な深絞り成形性向上をもたらした。
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