研究課題/領域番号 |
18K04788
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
古嶋 亮一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (50635307)
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研究分担者 |
且井 宏和 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (70610202)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高エントロピー合金 / 組成制御 / 粉末混合 / メカニカルアロイング / 硬さ / 強度 / 靭性 / 耐熱性 |
研究実績の概要 |
前年度、セラミックスに複合化させる高エントロピー合金(HEA)の候補としてTiCrNbMoTaとCrFeCoNiMoを選定したが、今年度はこれらの1つであるTiCrNbMoTaとセラミックスの複合体の高特性のための、HEAの組成制御や作製プロセスの検討を行った。HEAの組成制御については、TiCrNbMoTaを構成する5つの構成元素のうち1元素を除いた4元素で構成される合金とセラミックスである窒化チタン(TiN)を複合化し、硬さや強度、靭性などの機械的特性評価を試みた。その結果、若干差は見られたものの大きな特性の変化は見られなかった。このことから、少なくとも固溶体を形成しやすい元素の組み合わせを選定し、互いに十分に固溶した場合、耐熱性に若干の違いは想定されるが、機械的特性に大きな変化は生じないと考えられる。一方、作製プロセスにおいては、CrFeCoNiMoから固溶しきれなかったMoを除いたCrFeCoNiと炭化チタン(TiC)との複合化における粉末の作製プロセスについて、粉末の混合のタイミングなどを変えたサンプルを作製し、機械的特性の評価を行った。その結果、先にCrFeCoNiをメカニカルアロイング等で合金化した上でTiCと複合化させた場合は、金属原料粉とTiC粉末を一緒に混合させた場合に比べ、強度などの特性が向上することが分かった。ただし、メカニカルアロイングなどでCrFeCoNiを作製すると生成した合金がポットの壁面に付着し、回収が困難になる。このため、CrFeCoNiの合金化の時間や離形性を持たせるためにTiCをあらかじめ添加するなど、混合プロセスを工夫し、回収率を上げる方法を考える必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者は前年度選定したHEAの組成の影響やセラミックス-HEA複合体の作製プロセスの検討を行い、これらが強度等の機械的特性に与える影響について評価した。その結果、HEA組成よりも作製プロセスの方が機械的特性に与える影響が大きいことを発見し、機械的特性を向上させるプロセスについてある程度の知見を得ることができた。ただし、まだ原因について十分な考察はしておらず、複合化までのメカニズムも含めて今後もさらに調査していく必要がある。また、耐熱性についての検討はまだ十分に行われておらず、この点に関してはHEAの組成が影響する可能性はあり、高温強度などの測定を通じて評価する必要がある。 現状、令和元年度の目標であるHEAの複合化に適したセラミックスの探索については進んでおらず、その点に関しては順調に進展していると判断できないため、「やや遅れている」という評価を下している。しかし、本研究の主要な要素である機械的特性の向上に関する1つの知見を得たことは本年度の大きな成果に挙げられると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、耐熱性硬質材料の候補としているTiN-TiCrNbMoTaとTiC-CrFeNiCo複合体の作製プロセスにおいて、原料粉末の混合状態が機械的特性に与える影響について複合化のメカニズムを含めた考察を行う。その考察をもとに、上記硬質材料の作製プロセスの最適化を実験的に行う。原料粉末の混合状態の違いは、焼結時に形成するHEAの均質性に差を与えると想定される。そこで、HEAの均質性と作製した複合体の機械的特性の関係性について評価する。また、TiC-CrFeNiCoにより耐熱性を持たせるため、Moを添加したTiC-CrFeNiCoMox (0<x≦1)の作製も試み、機械的特性と耐熱性のバランスを鑑みながらの最適なMoの添加割合を決定する。 機械的特性を向上させるプロセスの最適化の知見を得た後は、複合化させるセラミックスの探索を行う。複合化においてHEAの融点が重要な因子となる。比較的融点の低いCrFeNiCoMo(推定融点2066℃)の場合は、液相焼結が想定され、複合化させるセラミックスとCrFeNiCoMoの濡れ性が機械的特性に重要な影響を及ぼすと考えられる。このためCrFeNiCoMoとの濡れ性の優れたセラミックスとして炭化物を中心に探索を行う。一方、融点の高いTiCrNbMoTa(推定融点2595℃)の場合は、固相焼結が想定される。この場合は、TiCrNbMoTaと反応して強度を低下させる化合物を生成しないセラミックスを選定する必要がある。この候補として、酸化物、窒化物、炭窒化物あたりを中心に探索を行う。 上記知見をもとに候補となるセラミックスとCrFeNiCoMox、TiCrNbMoTaの複合化を行い、得られた複合体の室温・高温曲げ強度などの機械的特性を測定し、複合化に適したセラミックスを決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画が当初の予定より遅れたため、物品購入が想定より低くなった点とコロナウィルスの影響で情報収集などに使用する旅費等が発生しなかったため、使用予定額が想定より少なくなった。 翌年度分は本来今年度行うべき研究に使用するための物品費と、研究の進捗速度を上げるため人件費を当初の想定よりも上乗せする予定である。
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