研究課題/領域番号 |
18K04794
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
水本 将之 岩手大学, 理工学部, 教授 (90325671)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 過共晶Al-Si合金 / 微細化 / 金属基複合材料 / SiC |
研究実績の概要 |
1123Kで溶解した過共晶Al-Si合金(Al-25wt%Si合金)中に,溶湯撹拌法およびLanxide法により作製した25vol%SiC粒子分散Al-Si合金基複合材料(SiC粒子径:17μm)を接種剤として,過共晶Al-Si合金の重量に対して1~10wt%添加した.3wt%添加した場合,初晶Siの粒径は無添加の場合と比較して約25%減少した.しかし,3wt%以上添加しても,初晶Siの粒径はほとんど変化しなかった.組織観察した結果,SiC粒子のほとんどは初晶Siに接しているのが観察され,SiC粒子が初晶Siの凝固核として機能したことが示唆された.しかし,溶湯撹拌法で作製した接種剤を添加した場合,接種剤の添加量が増加するにつれて,SiC粒子の凝集が観察されるようになった.画像解析によりSiC粒子の中心間距離を測定した結果,SiC粒子の均一分散を仮定して求めた中心間距離の約2倍となり,SiC粒子が不均一に分散していることがわかった.これは,添加した接種剤がバルク状であったため,添加後の撹拌では十分に接種剤を粉砕できなかったためと考えられる.一方,Lanxide法により作製した接種剤を添加した場合,初晶Siの結晶粒径への影響は溶湯撹拌法により作製した接種剤と同等であったが,SiC粒子は組織中にほぼ均一に分散しており,画像解析により測定したSiC粒子の中心間距離は,均一分散を仮定した計算値とほぼ一致していた.これは,Lanxide法により作製した接種剤では,SiCとAl-Si合金間のぬれ性が化学的に改善されたため,接種剤として添加されて溶解した後にも,SiC粒子が凝集しにくかったためと考えられる.しかし,Lanxide法により作製した接種剤を添加した場合,初晶Si中に複数のSiC粒子が観察されたことから,SiC粒子表面のAlNが初晶Siの晶出形態に影響を及ぼしたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SiC粒子を添加することにより,過共晶Al-Si合金の初晶Siの結晶成長形態にSiC粒子が凝固核として機能することで影響を及ぼすことを確認することができた.また,Al合金溶湯とぬれ性の悪いSiC粒子を金属基複合材料を接種剤として添加することで,直接添加した場合と異なり,溶湯からはじかれることなく溶湯中に添加することができることがわかった.さらに,作製方法の異なる接種剤を用いることで,SiC粒子とAl合金溶湯界面の構造の違いが,添加後のSiC粒子の分散挙動及び初晶Siの凝固核としての機能に違いをもたらすことがわかった.以上の結果より,より効果的な接種剤の添加方法およびSiC粒子に関する知見を得ることができたため,次年度以降の接種剤の最適化および接種後の過共晶Al-Si合金の特性評価への基礎的知見を得ることができたため.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,SiC粒子の粒径をより微細な粒子(粒径2μm程度)へと変化させると共に,接種剤の添加方法(溶湯温度,冷却速度,撹拌方法など)を変化させて,初晶Siの形態に及ぼす外的な要因の影響について調べる.これにより,SiC粒子による初晶Siの微細化効果のロバスト性について評価する.また,SiC粒子の他の初晶Siの凝固核の候補として,γアルミナ粒子にも注目し,同様に金属基複合材料として添加することで,SiC粒子との比較を行う. さらに,初晶Siの形態変化およびSiC粒子の添加が,添加後の過共晶Al-Si合金の特性に及ぼす影響についても評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
意図的に余剰として生じさせたものではなく,適切に必要な支出を行った結果として偶発的に発生した残額である. この残額に対して,年度中に研究課題に無用の物品に支出するよりも,翌年度分と合わせて有効に支出するべきと判断して,あえて年度をまたいで持ち越したものである.
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