昨年度までの研究では,平均粒径17μmのSiC粒子を用いた接種剤用いて,SiC粒子添加による過共晶Al-Si合金の初晶Siの微細化について基礎的な知見を収集してきた.本年度は,接種剤の添加量に比してSiC粒子の表面積の増大させることで微細化効果の向上を目的として,平均粒径2μmのSiC粒子を用いた接種剤を作製して実験を行った.1123Kで溶解した過共晶Al-Si合金(Al-25wt%Si合金)中に,Lanxide法により作製した30vol%SiC粒子分散Al-Si合金基複合材料を接種剤を溶湯の重量に対して1wt%添加し,接種剤添加後の保持時間および撹拌方法を変化させて,SiC粒子の分散状態および初晶Siの形態に及ぼす影響を調べた.その結果,接種剤添加後に30min保持した後に撹拌した試料で最も高い微細化効果が得られ,無添加の試料と比較して初晶Siの粒径は約25%減少した.しかし,添加したSiC粒子の粒子数と比較して初晶Siの粒数が著しく少ないことかわかった.そこで,画像解析による組織の解析結果と,SiC粒子が凝集体を形成したと仮定し,凝集体に含まれるSiC粒子の体積および凝集体の実効体積からモデル化して求めた凝集体の分散状態を比較したところ,SiC粒子の多くは約100μmの凝集体を形成し,初晶Siの晶出核として機能したことが分かった.これは,接種剤をLanxide法で作製した際に生じる窒化物により,SiC粒子同士が結合したためと考えられる.また,初晶Siの粒径は,SiC粒子の凝集体の大きさに依存すると考えられるため,微細化の目標とする20~50μmの初晶Siを得るためには,SiC粒子の凝集体の大きさを10μm程度にまで小さくする必要があることが示唆され,そのためにはLanxide法で接種剤を作製する際に,凝集体の大きさを制御するための組織制御が必要であることが分かった.
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