研究課題/領域番号 |
18K04798
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷川 将克 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (40335203)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 固相 / 包接化合物 / 精錬スラグ / 脱硫反応 / クロム含有高合金鋼 / スピネル型化合物 |
研究実績の概要 |
従来金属精錬スラグでは反応速度向上のため、いかに液相を生成させるかに注目されてきたが、本研究課題では積極的に固相を活用することを目的に、テーマ1「固相を用いた比較的低温における脱硫反応」、テーマ2「クロム含有高合金鋼の溶製に向けた固相の熱化学的特性」、テーマ3「反応解析のための溶体モデル構築」、テーマ4「高温で使用可能な脱ハロゲン・脱硫材料の開発」の4つの課題を行う。2年目の平成31年度(令和元年度)の研究成果を以下に記す。 テーマ1では、CaO-Al2O3系包接化合物をAr+H2+CO2+SO2混合ガス中で昇温し、気相から化合物への硫黄吸収速度を測定した。包接化合物は緻密な直方体とし、吸収した硫黄濃度を拡散方程式で解析して固相中の拡散係数を算出した。溶鉄からの脱硫時間を15分と仮定すると、包接化合物を70μm以下の粉体にすれば液相よりも硫黄吸収速度が速くなる可能性が見出された。また前年度に確立したスラグ-メタル平衡法によりCaO-SiO2-FeO系およびCaO-Al2O3-FeO系の硫黄吸収能(サルファイドキャパシティ)とFeO活量を測定し、スラグから硫黄が溶鉄中へ戻る復硫反応を解析することができた。 テーマ2では、CaO-SiO2-Cr2O3系のCr2O3活量を温度を変化させて測定した。測定値から化合物Ca3Cr2Si3O12のGibbsエネルギーと温度の関係を求め、化合物の分解温度を見積もった。またCaO-SiO2-Cr2O3系状態図を温度1573Kと1623Kで作成した。スピネル型化合物の組成とX線回折角の関係を定量的に評価し、(Ni,Mg)Cr2O4の活量と組成の関係がRaoult則より負に偏位することを見出した。 テーマ3では、前年度に構築したスピネル型化合物に関する溶体モデルのパラメータをテーマ2の実験値を基に最適化し、実験値と文献値を再現することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、金属精錬スラグにおける固相の積極的な活用を目的に、研究実績の概要で述べた4つのテーマについて研究を行っている。なお、固相の有用性を明らかにするため、比較対象として従来から用いられる液相スラグについても熱化学的性質を調べる必要があると考え、研究計画に追加した。 テーマ1「固相を用いた比較的低温における脱硫反応」では、CaO-Al2O3系包接化合物の硫黄吸収速度を測定した。硫黄の拡散係数の値は液相より劣っているものの、微粉化により低温での脱硫反応促進の可能性が見出された。固体CaOを脱硫に用いる場合、CaSが反応阻害層を形成するが、包接化合物では反応阻害層は観察されていない。これは申請時の予想と一致する。また、スラグ-メタル平衡法によりCaO-SiO2-FeO系およびCaO-Al2O3-FeO系のサルファイドキャパシティを測定し、脱硫・復硫反応の解析を行った。本課題で確立した実験手法は金属Fe共存下で測定できることに大きな価値があり、この研究成果を日本鉄鋼協会講演大会にて発表した。 テーマ2「クロム含有高合金鋼の溶製に向けた固相の熱化学的特性」では、前年度よりも活量の測定精度が向上し、令和2年夏までにこの研究成果を論文として投稿予定である。令和元年度は化合物のGibbsエネルギーおよび相平衡関係の温度変化を明らかにしたことが成果と言える。 テーマ3「反応解析のための溶体モデル構築」では、本課題で取り組む溶体モデルを拡張し、液相スラグにおいてもシリケートの構造を考慮した溶体モデルを考案している。その研究成果の一部は日本鉄鋼協会講演大会の国際セッションにて発表した。 なお後述の「学会発表」には記載してないが、本課題の内容を学生ポスターセッションにおいて3件の発表を行った。いずれの発表においても優秀賞/奨励賞を受賞でき、本課題は学生教育の面でも貢献していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は本研究課題の最終年度であり、実験の遂行に加えて学会での成果発表や論文投稿を行いたい。 液相スラグと比較してCaO-Al2O3系包接化合物はサルファイドキャパシティが高く、微粉化により比較的低温でも脱硫反応が進行する可能性が示された。令和2年度は包接化合物の安定性を調査するため、CaO-Al2O3-CaS系の相平衡関係の解明を行う。その際、本研究課題で取り組んでいる溶体モデルや化合物の生成Gibbsエネルギー変化が状態図と矛盾しないかも熱化学的に考察する。また包接化合物と液相スラグの混合物、包接化合物の粉体に脱酸材のAlやCを混合した試料を用いて、溶融金属や気相からの硫黄あるいはハロゲンの吸収を調査する予定である。また本研究課題で確立したスラグ-メタル平衡法によるFeO含有スラグのサルファイドキャパシティについては測定系を拡張し、FeOの溶融剤としての可能性や復硫限界について解析を行うことを考えている。 令和元年度はスピネル化合物の組成の定量方法が確立でき、活量-組成の関係を求めることが可能となった。スピネル化合物には2価のカチオンX2+と3価のカチオンY3+が含まれ、XY2O4と表記できる。令和2年度は測定系の拡張を予定している。測定値と文献値を用いて、溶体モデルの精度向上を目指したい。 CaO-SiO2-Cr2O3系のCr2O3活量の測定では、より高温での測定を予定している。既存の電気炉では1500℃までが限界であったが、1700℃まで昇温可能な装置を準備することができた。より実操業に近い条件での実験が可能になった。本研究課題で明らかにした固相の共存関係を考慮して、液相が生成する高温まで熱化学的に矛盾がない測定値の収集を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は、成果発表のために参加予定であった学会が新型コロナウイルスの影響で中止となって旅費が大幅に減少し、次年度使用が生じた。 令和2年度は研究計画に合わせた物品費に加え、成果発表のための旅費や論文投稿料、データ整理や文献調査、実験補助等のための人件費に活用したいと考えている。
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