研究課題/領域番号 |
18K04799
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高須 登実男 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (20264129)
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研究分担者 |
伊藤 秀行 九州工業大学, 大学院工学研究院, 嘱託教育職員 (90213074)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 排水処理 / マグネタイト生成 / 金属鉄 / 共擦り / モデル化 / 処理特性 / 操作因子 / 重金属 |
研究実績の概要 |
環境保全の観点から重金属類を含有する水の浄化は重要であり、除去能力が高く、かつ簡便でコンパクトな処理法および装置が求められている。これまでに、処理対象水中で粒状の鉄を混合することで、鉄表面にマグネタイトを生成させ重金属類を吸収・吸着させるとともに、マグネタイト粒子として剥離させ反応面を連続再生し、重金属を低濃度にまで除去できることを確認した。この新しい技術による排水処理システムを多方面で実用化していくためには、工学的見地から処理の定量評価とそれに基づく最適化が必要である。本研究では、この排水処理法における各種操作因子が処理特性に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的としている。 今年度は、昨年度に開発したバッチ式の小型装置を用いて、処理時間(10minから8h)が生成粒子に与える影響を調査した。処理溶液として、pHを3.5に調整した硫酸水溶液200mLを用いた。反応容器に処理液を入れ30℃に保ち、直径2mmの鉄粒を500g加え、3枚羽根を用いて撹拌速度250rpmで混合した。酸素濃度が21%である酸素と窒素の混合気体を容器内の気相中に30mL/minで供給した。実験中の溶液のpH、ORP(酸化還元電位)、DO(溶存酸素濃度)を連続的に測定した。また、所定の時間で溶液をサンプリングし、鉄濃度をICP-AESで測定した。処理後に生成粒子を回収し、質量測定、XRD分析、磁化特性測定、鉄濃度測定を実施した。溶液中の溶存Fe濃度、pH、ORP、DOは8hでも徐々に変化しているものの、初期の10minにおける変化が急激であることが確認された。スラリー濃度は時間に対して直線的であり、粒子の生成速度が一定であることが分かった。10minのものは全体に結晶性が低く、マグネタイトに加えてレピドクロサイトも認められた。1から8hではマグネタイトが顕著であり、フェリハイドライトも検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新しい技術による排水処理システムを多方面で実用化していくためには、工学的見地からの処理の定量評価とそれに基づく最適化が必要である。本研究では、この排水処理法における各種操作因子が処理特性に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的としている。 本研究では、まず、研究手法の基礎の一つとなる、詳細なデータが取得可能な小型装置を設計・製作した。特に、各種の制御と計測が可能であることに留意した。この装置を用いて、基本となる実験条件や手順といった実験方法を確立した。その上で、主に基本水溶液を対象として、操作因子の中で撹拌速度と酸素の供給速度の影響を調査した。さらに、処理時間が生成粒子に与える影響を調査した。 各実験条件において、処理特性としてpH,ORP,DOや、溶存FeおよびZn濃度の経時変化を把握した。また、処理後に生成粒子を回収し、質量測定、XRD分析、磁化特性測定、鉄濃度測定を実施した。本処理法ではマグネタイトが安定に生成されることが確認された。さらに、粒子生成速度の近似式を提案し、粒子生成速度は、時間に依らず一定で、撹拌速度の2乗に比例する項と容器に供給した混合気体の酸素濃度に比例する項との和で近似できることを明らかにした。吸着による除去では生成粒子量が吸着剤の量となるため、除去プロセスの評価や操作条件の設定を容易にできる貴重な情報を示した。 バッチ式の小型装置を用いた結果を得たことで、流通式にした場合の処理特性も推定できるようになった。一部の条件では流通式の実験でも確認したい。 また、Znを含有した溶液を用いた実験においては、処理によってZnを除去できること、また、その基本的な処理特性を確認できたが、Znの処理特性に及ぼす撹拌速度や酸素の供給速度の影響は調査できていない。 以上の状況より、研究の進行が若干遅れている点はあるものの、着実に成果を上げつつあると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で製作した小型装置と、確立した実験条件および方法を基本として、各種の操作因子が処理特性に及ぼす影響を系統的に調査していく。 操作因子としては、撹拌速度、酸素の供給速度、溶液の初期pHとDO、温度、除去対象元素とそれらの溶液中の濃度などを取り上げる。 処理特性としては、これまでと同様に、溶液中の溶存Fe濃度、pH、ORP、DO、スラリー濃度、除去対象元素の溶存濃度、について調査を行う。 生成粒子の特性調査として、XRD分析によりどの条件においてもマグネタイトが生成していることを確認した。また、磁化特性測、鉄濃度測定やTG-DTAも開始しており、これらのデータをさらに詳細に検討することで、マグネタイトや他の化合物の割合や構造などをより詳細に明らかにする。また、粒子形状をSEMで調査し、必要に応じて粒子の断面についてもSEM観察し、EDSで濃度分布を調べる。また、共擦りの効果を把握するために回転トルクを測定し、撹拌動力を説明因子として上述の処理特性と生成粒子特性を整理する。 実験により得られたデータについては回帰的に整理を進めている。現象の理解を進めるための平衡論および速度論に基づいた理論解析についても開始している。実験データに対する物質収支に基づく反応速度の解析を進め、速度パラメータの混合回転速度依存性を評価する。物質移動や電気化学的な界面反応速度の因子を考慮した反応モデルを構築することで、現象の理解と制御に関する指針を得る。 ここで、操作因子は組合せになるため、単純に組合せた場合には膨大な量の実験条件になる。また、各実験についての評価項目も多い。そのため、逐次データをまとめ、結果を参照し、また理論解析モデルも援用し、予想しながら条件と評価項目を絞って、効率的に研究を進める。得られた知見に基づいて各種操作因子が処理特性に及ぼす影響を定量的かつ系統的に明らかにする。
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