研究課題
本研究目的「1. 再沈法によるペロブスカイトナノ結晶(PeNCs)の精密合成条件の確立」「2. 電着法によるPeNCsの膜密度制御条件」、「3. 単一粒子分光測定によるPeNCsの成長速度・溶解速度・溶解度の解明」を遂行した。1.に関しては、異なる炭素鎖の界面活性剤を用いた新たなPeNCsの表面処理技術とオストワルド熟成の組み合わせにより、PeNCsのサイズをナノメートルオーダーで精緻に制御し、再沈法における赤・緑・青色の3種発光を実現した。具体的には、緑色発光PeNCsでは、発光波長523 nm、発光量子収率(PLQY)97%、赤色発光PeNCsでは、発光波長611 nm、PLQY75%、青色発光PeNCsでは、発光波長486 nm、PLQY86%を達成し、再沈法におけるPeNCsの最適な合成条件を明らかにした。2.に関しては、大気下で簡便に成膜可能なスピンコート法により、PeNCsの最適な膜形成条件を模索した。特に、緑色発光PeNCsにおいて、PLQY65 %以上の発光性能を有した薄膜化に成功しており、後の発光デバイスへの応用に向けたPeNCsの高効率化を十分に達成したと云える。3.に関しては、PeNCs構造の安定性の低さから、単一粒子測定が困難であったが、PeNCsをマイクロサイズで作製する事で、レーザー焦点下にマイクロ結晶を配置し、単一粒子のスペクトル測定を可能にした。現在、サイズに依存した発光波長を詳細に比較・検討し、微小化させたPeNCsの各種特性の解明を試みている。
1: 当初の計画以上に進展している
第五世代移動通信システムの普及に伴い、遠隔医療をはじめとした多くの分野で、肉眼と同等以上の広色域を有するディスプレイが求められている。このディスプレイの広色域化を実現するには、高発光量子収率・色純度等の優れた光学特性を有するペロブスカイトナノ結晶が有望視されている。我々は、申請書に記載した研究目的の他、PeNCs作製時の表面活性剤の量や炭素鎖長を変える事で、新たな表面処理技術を確立した。本技術により、「結晶サイズの精緻な制御」と「PeNCsの表面欠陥の効率的な補填」を同時に達成し、ディスプレイのRGB(R=Red, G=Green, B=Blue)に適合したペロブスカイトナノ結晶の作製に成功している。現状、世界で発売されているPeNCsの性能は、半値幅30 nm以上、PLQY70%以下であり、広色域ディスプレイへの応用には不十分である。一方で、我々の作製するPeNCsは、どの発光色においても、市販のPeNCsの光学特性を凌駕しており、ディスプレイへの搭載に向けたPeNCsの最適な合成条件を確立しつつある。
我々は、これまでに、広色域ディスプレイのRGBを満たすPeNCsの作製を達成しており、現在、PeNCsを導入した薄膜形成にも成功しつつある。しかし、作製したPeNCsを発光デバイスに展開するには、PeNCsの作製には不可欠な表面活性剤が絶縁体として働き、結果として、PeNCsの電子注入性が低下し、デバイス特性低下の原因になる。そこで、今後の研究方針として、PeNCsの作製に最適な表面活性剤を用いて、高い光学特性を有したPeNCsを作製する。その後、PeNCsの表面活性剤を、デバイス駆動時に最適な材料に交換する事で、PeNCsを導入した発光デバイスの高性能化を目指す。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 産業財産権 (2件)
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 59 ページ: SIIG02~SIIG02
10.35848/1347-4065/ab7410
Journal of The Electrochemical Society
巻: 166 ページ: B3131~B3135
10.1149/2.0221909jes
Journal of Nanoscience and Nanotechnology
巻: 19 ページ: 4599~4602
10.1166/jnn.2019.16346
Chemical Communications
巻: 55 ページ: 11630~11633
10.1039/c9cc04743c
巻: 59 ページ: SDDC04~SDDC04
10.7567/1347-4065/ab4ecd