昨年度までの研究により、エタノールを溶媒としたソルボサーマル法によって、o-フェニレンジアミン(o-PDA)とカテコールから赤色発光ナノカーボンが生成することが分かっている。この生成機構を検討するために、生成過程および酸化による消光過程における粒子形態および化学構造の変化を検討した。また、これまでのTEM観察に関して、前処理過程に問題があって、正しいTEM像が得られていなかったことが判明したので、これを修正したところ、粒子生成過程の形態変化が明らかとなった。すなわち、反応初期には5-10 nm程度の凝集体が生成して緑色発光を示すが、コントラストが低いことからポリマー状の前駆体であることが示唆された。さらに反応が進行すると、生成物は赤色発光を示すようになる。このとき、サイズはほとんど変化しないものの、コントラストが強くなっており、前駆体からナノ粒子へ構造変化することで、発光色が長波長化したと考えられる。また、赤外吸収分光測定から、o-PDA由来のNH2基とカテコール由来のOHによる脱水縮合反応が、この構造変化に寄与していることが示唆された。さらに、X線光電子分光測定からも、o-PDAのNH2の水素が脱離していることが示唆されており、アミノ基近傍の構造変化が発光色の波長に強く影響していると考えられる。反応がさらに進行すると、赤色発光は消光するが、その際には、粒子が粗大化するとともに、ピリジン様構造がX線光電子分光により観察された。一方、NMR分光法では、明確な官能基の存在が確認できなかった。このことは、官能基よりも大きな発光原子団が発光特性を支配していることを示唆する。
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