研究課題/領域番号 |
18K04813
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
後藤 邦彰 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (20215487)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 重力流動 / 流動性評価 / 隅角充填性 / 粉体圧縮成形 / 圧縮圧伝播 / 金型形状 |
研究実績の概要 |
本研究では、微小固体の集合体である「粉体」を成形容器内に充填し、圧縮して成形体を作成する圧縮成形操作を対象として、その操作結果の定量的な予測が可能となる局所粉体特性を提案し、その特性が評価できる測定装置を開発することを目的としている。本年度は、実際の圧縮成形工程での成形不良要因である(1)型枠内へ重力充填する際の充填不良と(2)圧縮成形する際の型枠凹部または凸部での圧縮力不足のそれぞれについて、(1)粒子の自重と粒子間および粒子壁面間の摩擦等相互作用に依存する流動性、すなわち局所流動性の違いを評価できる評価装置の試作、および、(2)粒子間および粒子壁面間と壁面形状に依存する圧縮方向(=底部方向)および側壁方向への圧力伝播特性の違いの検討を行った。 (1)局所流動性の評価装置の試作については、角度調整可能な二枚の板で構成されたモデル成形器を試作し、ミクロンオーダーのモデル球形粒子および非球形粒子の流動性評価を試みた。その結果、成形器内隅角部での閉塞状態が、試料粒子の内部摩擦角を反映する流動性指標となることがわかった。 (2)圧縮方向(=底部方向)および側壁方向への圧力伝播特性の違いの検討については、直径10mmの円筒形中央に直径6mm,深さ1mmの窪みを持つ凹型,同じく中央に直径 6mm,高さ1mmの突起を持つ凸型の3種の金型を製作した。伝播圧力の測定には、圧縮圧に応じて赤く変色する圧力測定フィルムを用いた。実プロセスで使用されている試料として非球形金属粒子2種類、モデル試料粒子として粒子径の異なる球形金属粒子2種類を用いた圧縮実験の結果、多少のバラツキはあるが、下杵形状に依らず粉体種ごとに、底面伝播圧力と側壁伝播圧力の比は一定となることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題申請時より、初年度(平成30年度)には、(1)局所重力流動性の評価装置の試作、および、(2)圧縮方向(=底部方向)および側壁方向への圧力伝播特性の違いの検討を計画していた。(1)局所重力流動性の評価装置については、計画通り、角度調整可能な二枚の板で構成されたモデル成形器を試作した。その装置を用い、モデル粒子の充填状態から平均閉塞高さを充填性の指標として提案した。その平均閉塞高さは、市販の粉体流動性評価装置を用いて測定できるバルク体のモデル粒子内部摩擦角と相関することを明らかとした。すなわち、成形器内隅角部での閉塞状態が、試料粒子の内部摩擦角を反映する流動性指標となることがわかった。一方で、実際の圧縮成形操作において充填性が問題となる非球形で流動性の悪い試料については、本年度試作した評価装置では、投入粒子量の不均一が問題となることも明らかとなった。現在、装置への粒子投入方法の改善を行っている。 (2)圧縮成形時の金型内圧力伝播特性については、直径10mmの円筒形中央に直径6mm,深さ1mmの窪みを持つ凹型,同じく中央に直径 6mm,高さ1mmの突起を持つ凸型の3種の金型を製作し、圧力測定フィルムによる伝播圧力測定から、下杵形状に依らず粉体種ごとに、底面伝播圧力と側壁伝播圧力の比が一定となることを明らかとした。このことは、次年度計画している圧力センサーを配した局所二次元圧力伝播特性評価装置の試作において、装置形状は複雑金型を再現する必要はないことを示し、次年度のための基礎データとして十分な成果であると考える。また、底面伝播圧力と側壁伝播圧力の比は、大きな塊状物体を圧縮した場合よりも等方的に力は伝播するが、圧縮の初期段階では圧力が側面へ伝わっていないことも示唆されており、粉体の伝播特性に対しても基礎的な知見が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、申請当初の計画通り、局所圧力伝播性評価装置の試作を中心に検討を進める。この装置の基本形状は、本年度の検討結果から、複雑金型を再現する必要はなく、軸対象の二次元的な形状で良いと考えられる。一方で、今年度の(2)圧縮成形時の金型内圧力伝播特性の検討において、当初は粒子の弾性変形領域内で比較的低い圧縮圧力での評価を予定していたが、予備実験により圧縮の初期段階では圧力が側面へ伝わっていないことが示唆されたため、粒子の降伏応力近くまでの圧力範囲で検討を行った。さらに、実プロセスでは塑性変形域まで対象とすることから、降伏応力値よりも高い圧縮圧での検討を行ったところ、弾性変形域と塑性変形域では、底面伝播圧力と側壁伝播圧力の比の値が異なる結果が得られている。このことは、当初予定よりも広い圧縮圧力範囲での測定が可能となる局所圧力伝播性評価装置が必要であることを示唆する。そこで、伝播圧力を検知するセンサーについて、その測定レンジを決めるために、今年度よりも高い圧縮圧での(2)圧縮成形時の金型内圧力伝播特性評価を実施する。その上で、必要な測定レンジの圧力測定が行えるセンサーを、市販しているピエゾ型センサーを改良することで試作することを予定している。 (1)局所重力流動性の評価装置については、本年度の検討で、流動性の悪い粒子に適用するためには、試作した評価装置への粒子投入方法の改善が必要であることが明らかとなった。流動性の悪い粒子であっても、粒子集合体である粉体では、粉体層内に設置した板を引き上げた場合、板上にスパチュラ角と呼ばれる一定の角度を持つ山形の粒子層が形成されることが古くから知られている。そこで、現在、安定したスパチュラ角を矩形の板上に形成し、そのまま装置に投入できる粒子投入装置を試作中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初、(2)圧縮成形時の金型内圧力伝播特性の検討において、粒子の弾性変形領域内で比較的低い圧縮圧力での評価を予定し、卓上引張圧縮試験機での実験を予定していた。購入に先立ち、現有の油圧式手動圧縮機により予備実験を行ったところ、圧縮の初期段階では圧力が側面へ伝わっていないことが示唆された。このため、今年度の金型内圧力伝播特性の検討は現有の圧縮機により実施した。 一方で、この圧縮圧範囲の拡大は、次年度予定している局所圧力伝播性評価装置に使用する圧力センサーの選定に影響する。すなわち、広い圧力範囲を同じ精度で測定できる圧力センサーは市販されていないことから、圧力レンジごとに異なるセンサーとし、かつ、市販しているピエゾ型センサーを改良することでセンサーを試作する必要があることを意味する。そこで、当初購入予定の卓上圧縮試験機の経費を次年度使用額とし、次年度のセンサー試作費用とすることとした。 以上のように、研究実施により明らかとなった想定圧力範囲の拡大に対応して、本課題研究を遂行するために、次年度使用額が生じた。
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