研究課題/領域番号 |
18K04814
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長澤 寛規 広島大学, 工学研究科, 助教 (30633937)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 化学気相蒸着 / 有機無機ハイブリッドシリカ膜 / 分子ふるい膜 / 常温常圧製膜 |
研究実績の概要 |
本研究は,大気圧非平衡プラズマを用いた化学気相蒸着法(大気圧プラズマCVD)により,高透過選択性を示す有機無機ハイブリッドシリカ膜の低温製膜の実現を目指すものである.2019年度は,大気圧プラズマCVDシリカ膜の諸特性の精密制御を目的として,プラズマガスに導入する窒素の濃度が膜構造および透過特性に及ぼす影響について検討を行った.具体的には,シリカ前駆体をhexamethyldisiloxane(HMDSO)に固定し,プラズマガスの組成をメインガスであるアルゴンに窒素を任意の濃度で導入することで調整し,大気圧プラズマCVD製膜を行った.窒素濃度を変化させることで,窒素リーンな条件ではSiO2-likeな無機的蒸着層が,窒素リッチな条件ではpolydimethylsiloxane-likeな有機的蒸着層が得られることが明らかとなった.また,膜構造の変化に応じて気体透過特性も変化すること,細孔径分布が小さく欠陥の少ない蒸着層が得られる窒素濃度の領域が存在することも明らかとなった. さらに,2019年度は,膜構造の広範な制御を目指して,様々な分子構造を有するシリカ前駆体を用いて,前駆体が膜構造及び透過特性に及ぼす影響についても検討を行った.例えば,HMDSOと同じく分子内に2個のSi原子を有し,4個の末端メチル基を持つtetramethyldisiloxane(HMDSOの末端メチル基は6個)を用いて製膜を行ったところ,HMDSOで製膜を行った場合と比べて,水素選択性の高い緻密な構造の蒸着層が得られることを見出した.すなわち,前駆体分子の構造あるいは構成元素によって膜構造や透過特性を制御可能であることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,プラズマガス中の微量成分である窒素の濃度が膜構造および透過特性に及ぼす影響について検討を行い,窒素濃度によって膜構造や透過特性を制御可能であること,良好な製膜性が得られる濃度範囲が存在することを明らかにすることができた.また,前駆体の分子構造が膜構造および透過特性に及ぼす影響の検討にも着手し,膜構造制御の可能性も明らかにしている.一方で,前駆体の分子構造による膜構造および透過特性の制御については不明な点も残っており,次年度も継続して検討を行うこととした.研究は概ね予定通り進捗しており,今後は製膜機構の解明や高分子基材への製膜等の応用へ向けた検討を進めていく.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,製膜機構の詳細な理解を進めるため,大気圧プラズマCVDプロセス内における反応および製膜過程の解析,モデル化について検討する.これまでに蓄積した大気圧プラズマCVD製膜における製膜過程の観察データを基に,反応器内での製膜速度分布などの新たな計測結果を加えながら,製膜機構を解明し,更なる高透過選択性膜の開発を進めていく.2019年度に検討を開始した異なる前駆体を用いた製膜についても,検討する前駆体種を拡充し,多様な構造の有機無機ハイブリッドシリカ膜の製膜を行う予定である.さらには,常温常圧製膜であるという大気圧プラズマCVD法の特徴を利用した,高分子材料などとのハイブリッド化にも取り組む予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度及び次年度に含まれる検討内容のうち,放電条件が膜特性に及ぼす影響について詳細な検討が前倒しで進んだ一方で,前駆体の分子構造が膜特性に及ぼす影響については,一部次年度も検討を続けることとした.一部を次年度に検討することとしたため,本年度に使用する前駆体は想定よりも安価に購入できた.このため,前駆体となる化学薬品の購入に充てる費用を次年度分として請求している.その他の経費については本年度,次年度とも予定通り執行する.
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