溶銑予備処理工程におけるインジェクション法では,不活性ガスと共に脱硫剤などの粒子群を吹き込む.そのような粒子は溶銑との濡れ性が悪いため,吹き込まれた粒子はガスと溶銑の界面を貫通して溶銑内に侵入する際,背後に気体を纏ってしまい,浴内での粒子の分散を阻害してしまう.他方,微小気泡が生成・崩壊するとき,その温度は数千度にまで上昇し,気泡内部の圧力は非常に高圧になることから,化学反応は非常に促進される.このように,溶銑に投入される濡れ性の悪い粒子群が纏う気泡の状態は,インジェクション法における化学反応と密接な関係があるものの,溶銑は不透明であることから,浴内での粒子群の分散挙動を直接観察することによって評価できない.そこで本研究では,浴内に投入される粒子がガスと溶銑の界面を貫通する際に形成するキャビティが分裂するときに発する放射音に注目し,その音響特性から粒子の浴内分散挙動を音響学的に診断することの実現可能性について検討した. 本研究は,溶銑内に侵入する濡れ性の悪い粒子を撥水球で模擬した水モデル実験で行う.水没した撥水球背後に形成されるキャビティが崩壊するとき,強い放射音が発せられる.この放射音は,球の没水による水面波の影響よりも十分に大きいことを明らかにしている.本研究では,浴内でのキャビティ分裂の発生をその放射音から検知できたことから,本診断手法の有効性を示すことができたと考えている. 今年度は,撥水球背後に形成されるキャビティ挙動を捉えるために本研究を通じて構築した高速度撮影画像と放射音をマイクロ秒オーダで同期する計測システムにより,キャビティ崩壊に伴って生じる放射音の発生メカニズムについて,その基礎的知見を細長物体理論を用いて明らかにした.さらに,放射音の発生メカニズムを明らかにするために必要となる数値解析手法について検討し,その境界条件のモデル化を行った.
|