研究課題/領域番号 |
18K04824
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
徳永 智春 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (90467332)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ガス環境TEM / 電子線照射 / イオン / プラズマ環境 |
研究実績の概要 |
初年度はガス環境TEM中において電子線照射時に発生するイオンの検出を試みた.検出方法はTEM内部に外部から電圧を印加することを可能とする新たに開発された電極ホルダー(申請者設計,市販予定)を挿入し,電圧を印加することでガス環境中に存在する気体がイオン化されることにより発生したイオンおよび,電子を電流として検出した.TEM中に導入したガスはイオン化した際に,その現象を理解しやすいArを選択した. 電圧を印加することにより,正負のバイアス印加時において電流が検出された.特に負のバイアスを印加した際に電流が検出されていることから,イオンが発生していることが明らかになった.発生するイオンの密度やエネルギーを得られた電圧電流特性から明らかにしたいが,実際にイオンを検出している負のバイアス領域からは,負のバイアスによってイオンを電極に引き寄せる際に発生する二次電子の影響により,正確な値を見る盛ることが困難である.そこで,正のバイアスを印加したイオン化に伴う電子を検出している領域からまずは,イオン化に伴って発生する電子の密度とエネルギーを算出し,その値からArイオンの密度とエネルギーを見積もった.その結果,イオン化に伴って発生した電子の密度は10~-10/m^3であり,そのエネルギーはTEM内部の圧力にも依存するがおよそ5eVであった.この数値は低密度のプラズマ空間に発生する電子密度及び電子エネルギーであることが判明した.Arのイオン化に伴って,Ar+と電子が等しい数だけ発生し,運動量保存の関係から同様のエネルギーを有すると仮定した場合,Ar+も同様の密度とエネルギーを有することが考えられた.このエネルギーを有するイオンを利用することにより,5eV未満の結合エネルギーを有する材料であれば,電子顕微鏡内部に置いて除去することができると考えられた.この内容は論文及び学会発表済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度計画ではArによる検証を行い,それを元にイオン空間の選別を実施することで,新たな環境を形成することを最終的なゴールと設定した.しかし実績概要にも示した通り,当初い予定の半分の目標が達成された.また初年度には当初予定していなかったN2ガスを用いた検証も行った.その結果,N2ガスがAr同様にイオン化することが明らかになり,また電子線照射中のN2がイオン化した空間から電極によりイオンを電子線照射領域から除外した場合と,しなかった場合の空間のEELSによる元素分析を行った結果,除外していない空間から得られたNのELNESの幅が広がっていることが判明した.これはN2がイオン化したことにより,電子軌道が変化することによるものと考えられた.DFT計算から電子軌道が変化し,電子占有気道と非占有軌道のエネルギー間隔が狭くなったことに起因することが示唆された.この内容を論文化する準備を行っている. また,イオン環境をコントロールする機器もすでに開発済みであり,次年度に置いて,ガス環境のコントロールだけではなく,他の分野と横断するような画期的な観察環境の構築が可能となることが示唆された.詳細は今後の研究推進方策について記述する.
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今後の研究の推進方策 |
初年度中に,電子線照射中におけるTEM内Ar環境がイオン化することを明らかにすると共に,イオン環境をコントロールする機器の開発,及び,N2も同様にイオン化することも突き止めた. イオン環境のコントロール機器を利用することで,ガス環境のコントロールは既に進めている最中であり,第二年度には環境コントロールを実現することができると考えている.これだけではなく,下記の実験も追加で実施し,新たな研究プロジェクトにつなげることを検討している. 窒素ガス環境において,一般的にN2がイオン化することでN2+イオンが発生すると言われており,これに電子を供給することで原子状窒素を作り出すことが可能である.この原子状窒素は極めて反応性が高く材料を容易に窒化することが可能である.また原子状窒素は成層圏に存在しており,宇宙空間に存在している材料の原子状窒素との反応を電子顕微鏡内部において可視化が期待される.いわゆるArなどの希ガスではなく,二原子分子を電子顕微鏡内に置いてイオン化させ,それこに電子線を照射することで原子状気体の空間を形成することが可能であり,これを利用した宇宙用材料の観察や,原子状気体の存在する宇宙空間でしか引き起こすことができないような材料をTEM内部のガス環境で形成することが期待される.本研究で開発した電極ホルダーを利用することで,宇宙用空間をも模擬することが可能な空間を手に入れることが期待され,宇宙用材料開発へとTEMの用途を拡大することが可能であると信じている.
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