昨年度に引き続き,取り扱いやすいシリカ前駆体としてオルトケイ酸エチル(TEOS)に注目し,TEOSによるカーボンナノファイバー(CNF)表面のシリカコーティングを検討した。CNF表面を混酸で処理すると大量の酸性官能基が導入され,この官能基が酸触媒として機能することで反応性の低いTEOSを用いてもCNF表面で加水分解が進行し,シリカのナノレイヤーを形成できることが明らかとなった。XPS,TEM/EDX,細孔分布測定法を駆使して,シリカナノレイヤーの形成メカニズムを明らかにした。得られた成果を国際学術誌に発表した。 開発した技術を用いて金属ナノ粒子を担持したCNFをシリカナノレイヤーで被覆した。金属ナノ粒子がシリカ層で保護されることにより,金属ナノ粒子の熱的な凝集(シンタリング)が抑制された。この触媒は有機分子の水素化反応に活性を示したことから,シリカ層で保護された金属ナノ粒子はその触媒活性点を失うことなく,シンタリング耐性だけが改善したことを明らかにした。 さらに酸化物層の堆積技術を複合酸化物材料に発展させ,さまざまな複合酸化物ナノ物質合成への端緒を見出した。単一金属酸化物ナノ粒子合成より複合酸化物ナノ粒子合成のほうが難度が高いことが知られており,新たなな複合酸化物ナノ物質の合成法として,原子層堆積プロセスが有望であることが示唆された。得られた複合酸化物は電極触媒反応のアノード触媒として優れた性能を示すことが明らかとなった。
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